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序 言

 おそらく、いまだかつて大エドワーズ学長ほど、ほぼすべての主題に関して自分の思想を常習的に、また丹念に書き記しておこうとしていた人物はいなかったであろう。彼が通常行なっていた研究は、手にペンを持ち、目の前に筆記帳を置いてなされるのが常であった。また彼は、毎日の乗馬の合間によく道端に馬をとめたり、真夜中でさえしばしば起き出して、そのとき思い浮かんだ重要な思想を紙に書き留めておくのであった。

 この習慣の結果、おそらく彼の草稿は、神学界また文学界において名だたる他のいかなる個人の草稿にもまして、筆者の知的生活の徹底的な記録となっている。また、彼のこうした草稿は膨大な量にのぼるものでもある。17世紀は多作な著述家らを輩出した時代であった。ホール主教の全集は八折判で10巻にのぼる。ライトフットのそれは13巻、ジェレミー・テイラーのそれは15巻、グッドウィン博士のそれは20巻、オーウェンのそれは28巻、バクスターなどは60数巻、すなわち、細かい活字でびっしりと印刷された八折判の、三、四千ページにもわたる著作を残している。だがエドワーズの草稿は、もしそのすべてが出版されたなら、おそらく最後にあげたバクスターを除き、これらのどの著者の全集にもまさる冊数となるであろう。エドワーズ氏の死後、こうした草稿は注意深く保管され、1つにまとめられていた。だがそれは約3年前、当時生存していた孫たち全員によって本書の編集者に委託され、彼がただひとりの永久保管人に任命されたのである。

 これらの草稿の中には、それまで一度も公刊されたことのない、非常に興味深く貴重な書類が多々ふくまれていた。そうした書類の1つが、本書にふくまれている説教集である。この説教集は、最初、エドワーズ氏によって1738年に、彼が牧会していたノーサンプトンの人々に向かって連続説教として語られたものであり、明らかにエドワーズ自身が出版を志したものであった。なぜなら、それらは一言一句書き記されており、その説教が完結した後すぐに、彼はその「贖いの歴史」に関する説教を開始し、彼が「贖いの歴史」の出版を企図していたことは知られているからである。この説教集は、彼の死後、ホプキンズ博士とベラミ博士によって出版のために選び出された。そしてベラミ博士によって部分的に筆写され、印刷のための準備が進められたが、何らかの理由によって出版準備が中断されてしまった。そのため、この説教集が公刊されるのは、今回が初めてということになったのである。

 この説教集の主題は、この上もなく実際的であり、重要なことである。愛こそは、新しくされた魂が最初に神に対して発するものである。----「私たちは愛しています。神がまず私たちを愛してくださったからです」。それは、魂の中で救いに至る恵みのわざが進められている確かな証拠である。----「御霊の実は、……です」。それは、キリスト者の性格の根底にあるものである。私たちは、「に根ざし、に基礎を置いている」。それは、神の真の子どもたちがみな歩むことになる道である。----彼らは「のうちに歩」む。----彼らの相互の結びつきの絆である。彼らの心は「によって結び合わされ」ている。----霊的戦いにおける彼らの守りである。彼らは「を胸当てとして着け」るべきである。----彼らのキリスト者的性格の豊かさであり完全さである。彼らはにおいて「全きものと」なる。----神のすべての要求を満たさせる精神である。なぜなら、「は律法を全う」するからである。彼らをその天の父に似た者とし、その御前に立つにふさわしい者とするものである。なぜなら、「神は」だからであり、天国は愛の世界だからである。

 この説教集の性格については、一言述べるだけで十分であろう。すなわち、ここにおさめられた説教すべては、この名高い著者の諸著作の特徴となっているのと同じ、あの強力で明瞭な思想、あの幅広く包括的な真理の見解、あの人間性に関する該博な知識、あの聖書に精通した正確な知識で特色づけられている、ということである。これは日ならずして、彼の有名な数々の著作、すなわち、『意志論』、『感情論』、『贖い』などに比肩するものとみなされるようになると思う。またこれは、その実際的な意味あいからして貴重なものとみなされるであろう。それは、先に挙げた第一の著作がその形而上学的な意味において貴重であり、第二の著作がその経験的な意味において、第三の著作が歴史的な意味において貴重であるのと軌を一にしている。この説教集については、著者のあらゆる著作についてと同様、ジョンソンがボズウェルに語ったのと同様のことが云えよう。後者から、「バクスターの著作では何を読むべきでしょうか?」、と問われてジョンソンは答えたのである。「全部読みたまえ。彼のは全部が一級品なのだから」、と。

T・E[トライオン・エドワーズ*]

ニューロンドン、コネチカット州
1851年11月

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* (訳者注) トライオン・エドワーズはジョナサン・エドワーズの曾孫であり、原著の編集者である。上にも述べられている通り、最初に説教されてから100年以上も筐底に眠っていたこの説教集を世に出した彼の功績は大きい。しかし、国際基督教大学の森本あんり氏によると、編集者としての限度を越えた作業も行なったらしい。

トライオン・エドワーズは、曾祖父の『愛徳とその果実』を出版するに際し、その原稿にある「注入 infusion」というカトリック用語をきらってこれを暗黙裡に書き換えたり削除したりするという甚だしい改竄を行なった。(森本あんり著、「ジョナサン・エドワーズ研究----アメリカ・ピューリタニズムの存在論と救済論----」、p.12、創文社、1995)。

より詳しくは、イェール大学が徹底的な校訂の上で刊行しているジョナサン・エドワーズ全集第8巻(The Works of Jonathan Edwards. New Haven: Yale University Press. VIII Ethical Writings. Paul Ramsey, ed.1989)のpp.59-60(脚注5)を参照する必要があるが、不幸にして訳者はまだ入手していない。



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