What Was Become of Peter?

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ペテロはどうなったのか？

NO. 3118

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1908年11月12日、木曜日発行の説教

説教者：C・H・スポルジョン
於ニューイントン、メトロポリタン・タバナクル

「さて、朝になると、ペテロはどうなったのかと、兵士たちの間に大騒ぎが起こった」。――使12:18

　そこに途轍もない大騒動が持ち上がったのは、ごく無理もないことである。収監されていたペテロが抜け出ることは、この世で最もありうべからざることであった。地下牢の奥底で、しっかり鎖につながれ、四重の番兵たちによって監視され、外部で救出をはかるような何の有力な友人たちも持ち合わせていなかった以上、この囚人が朝になって脱走していたというのは、驚愕すべきことであった。牢の扉という扉は閉まっており、番兵たちは部署に着いていた。だが、ペテロはどこに行ったのか？　「ペテロはどうなったのかと、兵士たちの間に大騒ぎが起こった」のも全く不思議はない。

　私たちは、この印象的な物語を、1つの例話として用いたいと思う。これを1つの寓意物語としたらどうであろう？　自らの罪の中で固く縛られていた罪人が、神のあわれみによって自由にされ、自分の霊的な牢獄の中から新しいエルサレムの町通りへと連れ出され、その後、自分の古い仲間たちの間では、その人がどうなったのかと、大騒ぎが起こるのである。多くの問いが発され、多くの異様な答えが返される。彼らにはそれが理解できない。虚栄の世はそれを異様なこととみなす。大いに驚きはするが、その変化を憎む。肉の思いは回心を理解できない。「ペテロはどうなったのかと……大騒ぎが起こ」る。

　まず第一に私たちが多少とも詳しく語りたいのは、一部の罪人たちの救いを例証するものとしての、ペテロの脱出についてである。それから、それに引き続いて起こった騒ぎについてである。そして、こうした騒ぎすべての対象である人物の平穏なふるまいについてである。「ペテロはどうなったのか？」

　I.　まず第一に、《このありうべからざる出来事》である。

　ペテロは獄中にあった。彼がヘロデの監獄から大手を振って出て来るなど九分九厘ありないことだった。だが、それ以上にはるかにありえないことは、罪人たちが罪の地下牢から自由にされることである。町へと通じる鉄の門が、ひとりでにその蝶番を回したのは不思議なことだったが、罪深い心が自らの罪を忌み嫌うようになるのは、それよりはるかに異様なことである。誰が罪の把握から逃れることができようか？　いかなる人にもましてがっちりと閉じ込められているのは、その元来の堕落性という獄屋の中にいる罪人である。その獄屋は、単に私たちの回りにあるだけでなく、私たちの中にあり、私たちの通り道を囲い込んでいる。私たちが伏すときも起き上がるときもそうである。花崗岩の壁や鉄格子よりも強固なのは、悪の諸力である。悪は私たちの魂に浸透している。私たちの一部になってしまっている。その面前からどこへ飛び去っても、いかにその力から逃れようとしても、暁の翼［詩139:9］は空しい。それでは、私たち自らの自我から逃げ出すことはできない。

　おゝ、不思議なことよ。クシュ人がその肌黒さから脱し、豹がその斑点から脱するとは！　ある人々の中にある悪は、度を超えて著しいものである。彼らは良心に乱暴を働いてきた。できる限り内なる光を消してきた。社会の慣習を平然と無視してきた。手当たり次第に罪を犯そうと心を決め、実際そうしてきた。何たる奇蹟であろう。このような者たちが、あれほど熱心に選び取った奴隷状態から解放されるとは。そむきの罪という内奥の地下牢の中で、悪徳という足枷にがっちり足を挟まれているこの者たちが、自由にされることがあるとは！　だがしかし、これが何としばしば起こってきたことか！　この牢獄の土台は揺り動かされ、捕われ人の束縛は緩められてきた。神の聖徒たちは、その全員が、自分たちを罪から自由にしてくださったがために、神をほめたたえることができる。罠は破られ、彼らは逃れ出た！　左様。そして、彼らの多くは、非常に大きな罪、どす黒い罪、鉄のように堅い罪、自分の魂に入り込み、霊をとりこにしていた罪から解放してくださったがために神を賛美できる。いかなる人も他人を不義から自由にしたり、自分自身の牢の扉を吹き飛ばしたりすることはできない。いかなるサムソンもそこまで強くはない。だが、ある《お方》は「救うに力強い者」［イザ63:1］であり、やって来ては捕われ人に解放を告げ［イザ61:1］、不義に縛られていた者たちに、牢獄が開かれたことを告げてくださった。また、そのように宣言してくださったため、私たちの中の多くの者らは今やその恵みによって自由になっているのである。おゝ、いま霊的なバスティーユに閉じ込められている他の多くの人々が自由にされるならどんなに良いことか！

　しかし、獄中にいたばかりでなく、ペテロは暗闇の中にいた。彼の監禁されていたみじめな場所は、夜にはすべてのともしびが消されていた。そのようなものが、あらゆる未回心の罪人の陥っている霊的状態である。そうした人々は暗闇の中にいる。キリストを知らず、自分自身の状態を察知しておらず、種々の永遠の現実を悟ってもいない。福音を一度も聞いたことのない人が、いかなる暗闇の影の中にあることか！　しかし、悲しいかな！　ある人々はそれを聞いたことが――しばしば聞いたことが――ありながら、それでもその目がさえぎられていて、光を見ることができず、このともしびによって一度も照らされなかった人々と同じくらい深い暗闇の中にいるのである。このように暗くされている者たちを回心させることなど不可能に思えないだろうか？　あなたは、キリストによる救いを説教してきた間、いわば天空の太陽そのものを彼らの目玉の前に掲げてきたが、彼らは盲目すぎて何も見えないのである！　この盲目な目にものが見えるだろうか？　この真っ暗闇の捕われ人たちが、その長い廊下と、曲がりくねった通路を通って牢獄を脱出できるだろうか？　この町の何千人もの人々は、祈りの家に全く出席しない。彼らに到達することなど可能だろうか？　神の恵みが彼らを訪れることなどありえるだろうか？　しかり。神をほむべきことに、御使いがペテロの獄中に来て、光をもたらしたのと同じように、御霊は人間の罪という牢獄の中に来て、天の照明をもたらすことがおできになる。そしてそのとき、人は、それまで決して知らなかった、イエスにある真理［エペ4:21］を一瞬にして見てとるのである。神に栄光あれ。神は盲目にされた思いを日の光の中に導き、天来の真理を見てとる目と、それを愛する心を与えることがおできになる。私たちはこのことについて証言できる。というのも、そのようにして神は、私たちに働いてくださったからである。では、なぜ神はそうした働きを他の人々にも及ぼされないことがあろうか？　しかし、それは大いなる驚異である。そして、それが成し遂げられるとき、そこには「大騒ぎ」が起こる。

　三番目のこととして、ペテロの場合には、望みのなさを示すもう1つのしるしがあった。彼は獄中にあった。暗闇の中にいた。そして、彼は眠っていた。いかにしてあなたは、熟睡している男を牢獄から導き出せるだろうか？　もしあなたが入り込んで彼を目覚めさせられないとしたら、彼のためあなたに何ができるだろうか？　かりにその扉がみな開かれ、鎖がみな外れたとしても、もし彼が眠ったままだとしたらいかにして脱出できようか？　見ると、御使いはペテロのわき腹を叩いている。たぶんそれは強く、だが優しく叩いたのであろう。おゝ、いかに私は願っていることか。神の御霊が今このとき、何人かの眠っている罪人をお叩きになることを！　私は、とりあえずその一打ちがどれほど鋭く痛烈なものであってもかまわない。その人がはっとさせられ、こう云わされる限りそうである。「どうしたら私は、この恐ろしい罪の独房から逃れられるだろうか？」　私の兄弟たち。ある人々の思いをその無関心さから目覚めさせることの何と困難なことであろう！　この世で最も無関心な人々とは、一度も途切れることなくずっと商売で繁盛してきた人々である。彼らは金銭を数え上げるのと同じくらい迅速に貯め込みつつあり、永遠の事がらについて考える時間がない。もう1つの非常にかたくなな種別は、頑健な健康をずっと楽しんできて、痛みや苦痛についてほとんど知らない人々からなっている。そうした人々は永遠について考えない。健康を享受できることは大きな祝福だが、病気にかかることも大きな祝福である。というのも、それはしばしば、眠り込んだ心を覚醒させる手段だからである。多くの人々は、物事が自分たちにとって順調に進んでいるからといって、自分には何の問題もないと夢見ている。だがしかし、彼らは特に危険な状態にある。おゝ、生ける神の御霊よ。彼らのわき腹を叩き給え！　私はこうした一打ちが、ある人々に対しては説教によって、別の人々に対しては友人の個人的な一言によって、また、他の人々にとっては伴侶の死によって、あるいは、愛児の喪失によって、あるいは、大きな苦難や欠乏によってやって来ることを知っている。よろしい。もしあなたの魂が救われるならば、あなたは後々には、自分を《救い主》に導く助けとなった、目覚めの苦難を残念には思わないであろう。しかり。いかに無関心な人々も覚醒させられてきた。では、なぜそれがもう一度起こらないだろうか？　教会はペテロのために祈ったし、その祈りによって御使いが彼を起こしにやって来た。私たちは、無関心な息子たち、無頓着な娘たちのために祈ろうではないか。不敬虔な者たちのため、私たちの回りのキリストを持たない民衆のため祈ろうではないか。そうすれば神の御霊が彼らを目覚めさせ、彼らに悲痛な叫びをあげさせるであろう。「主よ。助けてください。私たちは滅びそうです」*［マタ8:25］、と。

　ペテロの場合には、さらなる困難があった。彼は獄中にあった。暗闇の中にいた。眠っていた。そして、鎖につながれてもいた。どちらの手もそれぞれひとりの兵士の手に堅く結びつけられていた。いかにして彼に脱出することなどできただろうか？　そして、ここにこそ一部の罪人たちの困難がある。彼らは自分の古いつき合いたちを残して行けない。かりに、ひとりの陽気な若者がキリスト教信仰について考えたいと申し出たらどうだろうか？　何と、まさに今晩、彼はそのためにあざけられるであろう。かりにそうした人々が聖潔の道を歩こうと努力するとしたら、彼の左手には汚れた仲間が鎖で結ばれていないだろうか？　それは、これまでに持ってきた、みだらな関係かもしれない。いかにして彼はそのつながりを断てば良いだろうか！　男が不敬虔な女に結びついてしまうとき、あるいは、女がいったん自らを汚れた関係に引き渡してしまうとき、彼らを自由にすることは何と難しいことか！　だがペテロは、番兵に鎖でつながれてはいても、現に牢獄から出て来た。そしてキリストは、ある罪人の手足が他の、同じくらい悪に染まった罪人と親密に結び合わされることで縛られていようと、その罪人を救うことがおできになる。その人が自由になれるなど不可能に思える。だが、神に不可能なことは1つもない。この場にいるある人々は、多くの古いつながりを断ち切り、多くの悪しきつき合いを一掃しなくてはならなかったかもしれない。だが、天来の恵みによって、それはなされてきた。私たちはその栄光を神に帰し、それがもたらす「騒ぎ」を不思議には思わない。

　こうしたすべてに加えて、ペテロは単に鎖でつながれていただけでなく、牢獄の外に配置された兵士たちによって番をされていた。そして、おゝ、いかに神が祝福しようとされる一部の罪人たちは、同じように番をされていることか！　悪魔は、神が彼らをいつの日かお救いになると薄々感づいているかのように思われる。それゆえ、彼は彼らを監視している。何らかの手段で彼らが自分の手から逃れるといけないと、日夜彼らの番をしている。人々が、繊細な良心を受けるか、思いを少しでも目覚めさせられるとき、サタンは彼らが祈りの家に入るのを放置してはおかない。あるいは、たとい彼らがやって来るとしても、自ら同伴して、彼らの注意をむなしい思いか、熾烈な誘惑によって散らそうとする。あるいは、たとい彼らが説教を熱心に聞くことができるとしても、彼が外で彼らを待ち受けていて、彼らの心から良い種を盗み去ろうとするであろう。彼は、その人をここで誘惑で襲い、そこで誘惑で襲うであろう。彼は何らかのえり抜きの手先を通し襲い、それからまた、似たような性格をした別の罪人を通して襲うであろう。そうした手段によって、彼を救われないようにしようとするのである。

　しかし、主が救おうとするとき、主は番兵も、牢獄も、暗闇も、鎖も、悪魔とそのすべての同類どもをさっさと片づけておしまいになる。もし主があなたを救おうとしておられるとしたら、方々。あなたがどのような人であろうと、主はあなたの古い主人とその番兵たちを打ち負かされる。主の永遠の御意志は確実にあなたの意志も、サタンの意志も、肉の欲も、あなた自身の決意も打ち負かすことであろう。そして、たといあなたが死と盟約を結び、地獄と契約を交わしていようと、永遠のエホバがそう望まれるとしたら、あなたの契約を打ち破り、あなたを自由にし、あなたをご自分の火の戦車の車輪につないだとりこにすることがおできになる。というのも、神には何1つ不可能なことはないからである。

　もう一言云えば、ペテロはこうしたすべてに加えて、死の前日にあった。それは彼の最後の晩であった。彼が処刑される前夜であった。ペテロが眠っていたと考えるのは非常に甘やかなことである。それによって思い起こされるのは、フォックスの『殉教者伝』の中に記されているひとりの聖徒である。看守の細君が朝、彼を呼びに行くと、彼はあまりにもすやすやと眠っていたため、彼女は彼を揺り起こさなくてはならなかった。人をうるさく起こして、こう云うのは奇妙なことであった。「起きてください、焼かれる時間ですよ！」　しかし、彼は、まるでその朝、残虐な死を迎えるのではなく、結婚するかのようにすやすやと眠っていた。神は、いかに気がかりな折にも、ご自分の民にこの上もない平安を与えることがおできになる。それでペテロは眠っていた。しかし、それは私が詳しく語ろうとしている点ではない。翌朝、彼は死ぬことになっていた。だが、神は彼を死なせようとはなさらなかった。ことによると、この言葉を聞くか、読むかしている誰かは絶望しているかもしれない。――絶望のあまり自分を手にかけようとする寸前かもしれない。あるいは、あまりにも悲嘆に暮れすぎていて、主がすみやかにその人の前に現われてくださらなければ、遅すぎることになるかもしれない。神をほむべきことに、決して神はご自分の選民が罪の中で滅びことをお許しにならない。決してご自分の時より早まることはなさらないが、決して遅れることもなさらない。神は最後の瞬間にやって来られる。そして、永遠の破滅が神の選びの民を呑み込もうとするかに思われるとき、その手を伸ばし、ご自分の目的を成し遂げてくださる。願わくはこの言葉が、いずれかの人にとって神の使信となるように！　あなたは罪にのめりこんでおり、自分の末路の間近にあるが、それでも、いかなることをも、また、あらゆることをも行なうことのできる主は、あなたのもとにやって来て、今でさえ――五時［マタ20:6］にさえ――あなたを救うことがでおできになる。そしてその後、そこには全くの「騒ぎ」があるであろう。

　私たちはこのように、一連の望み薄なことすべてについて述べてきたが、私が注意してきたところ、しばしば最も見込みのなさそうない人々こそ、救われてきたのである。多くの人々について私は、「確かに、主の前で油をそそがれる者だ」［Ｉサム16:6］、と考えてきたが、失望させられてきた。また、他の多くの多くの人々は、好奇心から話を聞きに来て、心に感銘を受ける見込みの最も薄い者たちであったが、それにもかかわらず、主権の恵みと出会うことになった。これを励ましとして、あなたはこう云わされないだろうか？　「なぜ主が私と出会ってくださらないわけがあろうか？」　あゝ、愛する魂よ。なぜそうでないだろうか？　そして、それ以上に、主はあなたが、ご自分のこのみことばに聞き従ったものとみなされるであろう。「御子を信じる者は永遠のいのちを持つ」［ヨハ3:36］。イエス・キリストを信じるとは、単純にキリストを信頼することである。ならば、キリストを信頼するがいい。というのも、もしあなたが、あなたの咎ある魂を全くイエスにゆだねるなら、イエスはあなたとすでに出会っておられ、あなたはいま救われているからである。行くがいい。今からは決して罪を犯してはならない［ヨハ8:11］。あなたの多くの罪は赦されている！［ルカ7:47］　それが、救いのきわめて簡潔な要約である。自分の信頼をイエスに置く者は救われる。願わくは神が、そうした信仰をあなたに賜らんことを！

　II.　第二に、この偉大な出来事の結果、「ペテロはどうなったのかと」、《そこには大騒ぎが起こった》。主が、まるで見込みのない個人をお救いになるとき、そこには、そのことについて確実に騒ぎが起こるはずである。

　この聖句にはこうある。「兵士たちの間に大騒ぎが起こった」。そのように、一般的に、ある罪人についての騒ぎは、その人の昔からの仲間たちの間で始まる。「ピーターはどうしたんだ？　奴は、今晩、俺たちの酒場で会えると思っていたのに。ピーターに何が起こったんだ？　俺たちあ一緒に劇場に行くことになってたんだ。ピーターはどうなったんだ？　俺たちあ競馬場で愉快な時を過ごすつもりだったんだぜ。ピーターはどうなったんだ？　俺たちは、舞踏場に一緒に行く約束してたんだぜ」。彼の昔からの仲間たちは云うであろう。「俺たちあ、奴がこれっぽっちも宗教にかぶれるなんて思ってなかったぜ。奴が聖徒なんかになれるはずねえ！　ひとつ奴を連れ戻してやろう。奴は、あの勿体ぶったメソジストの間にいるが、そこにいたたまれなくしてやろうぜ。奴をあざ笑ったり、からかったりして、我慢できないようにしてやろう。もしそれがうまく行かなければ、奴を脅して、奴の信じてることをさんざんに疑いのめして、奴を誘惑しまくってやろう」。あゝ！　だが、もし神がそうした人々を罪から自由にしてくださったとしたら、その人は本当に自由であり、あなたは二度と決してその人を牢獄に入れることはないであろう。あなたがその人に出会うとき、あなたはその人が新しい人になっていることに気づくであろう。また、その人の前から退散するのが嬉しくなるであろう。というのも、その人はあなたの手に負えないことが分かるからである。しばしば、ある人の回心が徹底的なものであるとき、その人は、単に自分の古い仲間たちから遠ざかるのを喜ぶだけでなく、その人の古い仲間たちも驚くほどその人に近寄らないのを喜ぶようになる。彼らは、その人の様子が気に入らない。その人は、以前のその人から、あまりにも変わり果てた人になっている。彼らは云う。「ピーターはどうなったんだ？　奴のふるまいは俺たちのとは違うぜ。奴に何が起こったってんだ？」　もしある犬が突然御使いに変わったとしたら、他の犬たちは困惑し、犬小屋全体がその人に吠え立てるようになるであろう。

　しかし、後でこの兵士たちはヘロデのもとに来た。ヘロデは驚いた。「ペテロはどうなったのか？　わしは十六人の男に奴の番をさせたではないか。わしは奴の足に重い鎖をかけたではないか。わしは奴の手首を兵士の手首と数珠繋ぎにしたではないか。奴を牢獄内の奥の牢に入れたではないか。ペテロはどうなったのか？」　ヘロデは非常に激怒した。彼はヤコブを殺したことで喜んだ。そしてペテロを殺すつもりだった。それで彼は地団駄踏んで叫んだ。「ペテロはどうなったのか？」　どこかのえり抜きの罪人を失ったときの悪魔は、どれほどの吠え面をかくことであろう。彼の見聞きする前で、かつては悪態を平気でつけた男が祈り始め、かつては金剛石のように硬かった心が溶け始めるのである！　私には彼がこう云うのが聞こえる気がする。「ピーターはどうなったのか？　わしのしもべたちがまたひとり逃亡してしまった！　わしのえり抜きの従者たちがまたひとり敵に屈服してしまった！　何と、キリストがまた獅子の顎の中から子羊を奪いおったのか？　奴は、わしにひとりも残しておかんつもりか？　わしには、ひとりも兵士がいなくなるのか？　わしの黒近衛兵のうち、ひとりもわしには残らんのか？　わしは全く愛想を尽かされてしまうのか？　ピーターはどうなったのか？」　おゝ、あわれな罪人たちがその鎖を断ち切った場合、地獄の領土全体に遠吠えがあげり、悪鬼どもを切歯扼腕させるというのは素晴らしいことである！　私は切に願う。当時の教会の祈りがペテロを自由にし、ヘロデを怒らせたように、今の教会の祈りが罪人たちを自由にし、悪魔の面目を潰させるように。

　しかし、私たちはユダヤ人たちを忘れてはならない。彼らはペテロが死ぬのを期待していた。そして、ペテロの脱獄という苦菜を添えて過越の食事をしなくてはならないだろうと知ったとき、彼らは口々に云い始めた。「ペテロはどうなったのか？」　彼らには、彼の脱出が理解できなかった。近頃の多くの人々は、このユダヤ人のようである。彼らは外部の者である。彼らは、はなはだしい悪徳のうちにある罪人たちと仲間付き合いせず、傍観している。ある人々が回心したと聞くと常に、その人が本当に現実に変わったとしたら、彼らはこう云う。「彼はどうなったのか？　私たちには彼が理解できない！」　彼らはその人を狂信的な愚か者としてけなす。彼らの格言はこうである。人が礼拝所に行きたがるのは、万事問題なく良いことである。キリスト教を信じたがるのは、万事問題なく良いことである。だが、そのことで騒ぎ立ててはならない。それに足をさらわれてはならない。それを自分ひとりのものとしてとどめておき、そのことで静かにしているがいい。彼らは、なまぬるいのが自分にとって最高の精神状態であると思う。だが《救い主》はこう云っておられる。「あなたはなまぬるく、熱くも冷たくもないので、わたしの口からあなたを吐き出そう」［黙3:16］。人が純粋に回心したとき、特に、もしその人が以前は名うての罪人だった場合、こうした不信心な宗教人たちは叫び立てる。「ペテロはどうなったのか？」　願わくは主が、今の時代にそうした怒号を数多く聞こえさせてくださるように！

　そしてまた、確かに、神ご自身の民の間でも大騒ぎになったに違いない。ロダが駆け戻ってこう云ったとき、その祈祷会は大騒ぎになった。「ペテロ様が門の外に立っておられます！」　「嘘だ、ありえない」。「ですが、私はあのお方の声を知っています。ここに何度もいらっしゃったことがあります。間違いっこありません」。「あゝ」、とある者が云った。「それは、彼の霊なのだろう。ペテロ本人のはずがない。それは不可能だ！」　そのように、時として、そのよこしまさで非常に名を売っていた罪人が回心したとき、多くの祈りの的となってきた後であっても、神の民は云うであろう。「何と、あの男が回心しただって？　ありえない」。教会を迫害していたパウロが、導かれてキリスト者になったとき、弟子たちにそれを信じさせるのは並大抵の苦労ではなかった。彼らは多くの者たちからこの男について聞かされていた。いかに彼が聖徒たちを死に至らせてきたかを聞いていた。確かに、彼がキリストの弟子になるなどありえなかった。当時パウロに起こったことには大騒ぎが起こった。キリスト者たちは、彼の回心が純粋であるなどとは到底信じられなかった。私は主に切に願う。この時代にも、どこかの非常に恐ろしい、主の福音の反対者たちが――どこかの、名うての真理の敵たちが回心させられることを。私は願う。この学問の時代の偉大な哲学者たち――私たちを常に新しい不合理さでぎょっとさせている人々――の何人かが、神の主権の恵みの力を感じさせられるようになることを。そのため祈ろうではないか。そうすれば、それが実現するであろう。主に願おうではないか。自分たちの愚劣な学識を永遠の知恵の前でさえ振り回す者たちをも救ってくださることを。また、彼らがこれから引き下ろされて、へりくだって《救い主》の足元に座り、教会の中に大騒ぎが起こることを。「何某教授や誰それ教授はどうなったのか？」、と。おゝ、《主人》よ。あなたご自身の栄光ゆえに、そうなりますように！

　III.　最後の点は、《こうした騒ぎすべての真中にいた人の平穏なふるまい》である。

　ペテロはどうなったのか？　彼は獄の外に出ていた。どこにいたのか？　教えよう。まず最初に、彼は祈祷会に行った。人が、招かれなくとも祈祷会に行くとき、それはその人が真に覚醒させられていることを示す非常に良いしるしである。私は、神の民が嘆願のために集まっている所に、見知らぬ人がこっそり忍び込み、片隅に座るのを見るとき、非常に嬉しく思う。どんな偽善者も日曜日に礼拝に来ることはできる。誰でも説教を聞きに来ることはあろう。だが、必ずしもすべての人が、祈りにおいて神に近づこうとするわけではない。確かに、祈祷会が愛されるようになるとき、それは健全で有望な証拠である。ペテロはどうなったのか？　彼は、ごてごて飾りたてた安酒場にはいなかった。ペテロはどうなったのか？　競馬には行かなかった。ペテロはどうなったのか？　古いつき合いと一緒に九柱戯場にはいなかった。しかり。むしろ、彼は、へりくだった信仰者たちが《いと高き方》に祝福を祈り求めている場で、神に近づこうとしていた。

　次のことして、彼はキリスト者たちの一団に加わった。ペテロが以前にそうしたことがなかったというのではない。だが、この折に、彼はキリスト者たちがいる場所へ出かけて、彼らとともに座った。そのように、神が罪から自由にしてくださる罪人は、自分自身の仲間たちのもとへ真っ直ぐに飛んで行く。「類は友を呼ぶ」のであり、本物の白い鳩の羽根をした者たち、またキリストの血によって洗われた者たちは、「雲のように飛び、巣に帰る鳩のように飛んでくる」［イザ60:8］。キリストを愛している者は、その民を愛さないはずがない。もしあなたが、自分を救ってくださった主を愛しているとしたら、あなたは、主が救われた人々を愛するであろう。また、ペテロのようにあなたの兄弟たちを見いだし、そこに加わるであろう。ならば、見るがいい。あなたがた、回心者たちに起こったことで騒いでいる人たち。私たちはあなたに、その人がどこにいるかを告げた。その人は神の教会に加入している。バプテスマを受けようとしている。そして、悪評を受けようとも好評を博そうとも、キリストに従いつつある。それに対してあなたは何と云うだろうか？

　私は、さらにペテロがどうなったか、あなたに告げよう。彼は自分の経験を教会の集会で告げ始めた。ペテロはそれをすぐさま始めた。彼は手ぶりをすると、主がどのようにして彼を牢から救い出してくださったかを彼らに告げた。これは何と喜ばしい眺めであろう。たった今まで冒涜で真っ黒な口をしていた人が、立ち上がっては、主の恵みが自分に対して行なったことゆえに主を称えているのである。「これは、到底考えられないことですよ」、とある人は云うであろう。「それが私のような者に起こるなんて」。話をお聞きの愛する方々。私は考えられないこととは思わない。むしろ、そのことゆえに神をほめたたえるべきである。願わくは神がそれを起こしてくださり、私に聞かせてくださるように！　世界のいかなる経験にもまして甘やかなものは、悪のとりこになっていた罪人が、今まさに強い御手と伸べられた腕とをもって引き出されたという経験である。並みではない罪人が、尋常ならざるしかたで回心されられた場合、その人は私たちの教会集会で、常にもまして心励まされる話を告げ、私たちはそのような喜ばしい知らせを嬉しく思う。それが、ペテロに起こったことである。

　そして、最後のこととして、それからほどなくしてペテロはイエス・キリストの福音を宣べ伝えていた。そして、おゝ！　あなたがた、自分の不敬虔な仲間たちの何人かに起こったことに驚きあやしんでいた人たち。あなたは彼らが他の人々に、神が自分の魂のために何をしてくださったかを告げていると聞くことになっても不思議はない。私は、奴隷証人であったジョン・ニュートンが、悪行の限りを尽くしてきた半生の末に、神があわれみをもって彼と出会ってくださった後で最初に行なった説教を聞いてみたかったと思う。おゝ、それは甘やかな、そして涙に濡れた説教だったに違いない！　そこに眠たげな聴き手はひとりもいなかったと云って良いであろう。彼は、他の人々の心を溶かすようなしかたで語ることであろう。彼自身の心が溶かされていたからである。私は、垣根の下からででも良いから、ジョン・バニヤンがイエスの福音を宣べ伝えている話を聞きたかったと思う。彼が、酔いどれの鋳掛け屋のために何をしてくださったか、また、神がいかに彼をイエスの尊い血で洗って、救ってくださったかを語るのを聞きたかったと思う。罪が何か、また、《救い主》が何から自分を救ってくださったかを知っている者たちは、「御霊と御力の現われ」［Ｉコリ2:4］によって語ることができる。ペテロはこう云うことができた。「私は獄中にいましたが、私の自由を得ました。そして、それは神のみわざでした」、と。彼は、神が自分のためにしてくださったことを力強く証しできたであろう。

　私は、今このとき、血で赤く染まった軍旗を掲げている。私は一個の募兵係軍曹であり、神の御名において、十字架の軍旗の下に集う新兵を徴募したいと思っている。「あなたは誰を徴募しようというのですか？」、とある人は云うであろう。「彼らはどのような性格の者でなくてはならないのですか？」　彼らには咎がなくてはならない。私は義人とは何の関わりも持つまい。《救い主》が来られたのは、罪深くない者たちを救うためではない。主が来られたのは罪人たちを救うためである。私は、昨年の冬、自分の窓から外を見渡した。それは何箇月も雨が、ほとんど切れ目なしに降り続いていた頃であった。そして、私はひとりの人が庭園用の蛇管を持って植物を眺めているのを見た。そして私は彼を何度も何度も見た。そして、今の瞬間に至るまで、私は彼が何をしようとしていたのか理解できないでいる。庭園が雨によって百日かそこらも、ほとんど休みなしに潤されていたときに、庭園に水をやるというのは、私にとって異常なことと思われた。さて、私は、あなたがた、自らの作り出す義をすでに滴らせている人たちに水をやるつもりはない。否、否。あなたに何の恵みの必要があるだろうか？　キリストが来られたのは、善人を救うためではない。あなたは、いかにしても自力で天国に到達しなくてはならない。主が来られたのは、不潔な者を洗いきよめ、病んだ者を癒すためである。そして、おゝ、あなたがた、不潔な人たち。あなたの前に私は福音の軍旗を掲げ上げて、もう一度云う。「誰か、この旗の下で軍に入る者はいないか？」　もしあなたがそうしたければ、救いの偉大な《指揮官》があなたの咎を取り去り、あなたのもろもろの罪を海の深みに投げ入れ、あなたをご自分の御霊の力によって新しく造られた者としてくださるであろう。

　「よろしい」、とある人は云うであろう。「もし私が軍に取られて、新しく造られた者となるとしたら、私は何をすれば良いのですか？」　私は、あなたが何をすれば良いかを告げはすまい。むしろ、もし主があなたを救ってくださるなら、あなたは主を愛するあまり、あなたにとって何事も辛すぎることはなく、何事も重すぎることはなく、何事も難しすぎることはなくなるであろう。あなたは、いったん主の大いなる救いを受け取るならば、何の強制も必要なくなる。あなたは自分にできる以上のことを喜んで行なおうとするであろう。より多くの恵みと力を祈り求めては、主の御名のゆえにさらに大きなことを試みようとするであろう。多く赦された人が、自分を赦してくださったお方に仕え、その栄光を現わすために試みようとしないことなどあるだろうか？　私は、《救い主》の旗の下に、何かどす黒い犯罪者として入隊するほど幸運だったとしたら、どんなに良かったことか！　こうした男こそ、キリストに奉仕する者である。そうした者こそ、主の御名を他の誰よりも甘やかに広め回る人である。そうした者こそ、誰をも恐れない人である。そうした者こそ、キリストの福音の力を明確に知っているだろう人である。おゝ、主がそのような者らを私たちの間にもたらしてくださればどんなに良いことか。というのも、私たちにはそうした人々が必要だからである。――真っ直ぐに出て来て、何の疑いも、恐れも持たず、尻尾を巻いて逃げ出すこともなく、いかなる批判にも立ち向かい、いかなる反対をも物ともせず、それぞれがこう云っている人々が。「罪人たち。キリストはあなたを救うことがおできになります。私をお救いになったからです。私は酔いどれの盗人でした。ですが、神は私を赦し、きよめ、洗ってくださいました。そして、私はその救いの力を知っているのです」、と。祈るがいい。この教会の教会員たち。男女双方の間で、そのような多くの回心が起こり、このロンドンの町中に、大騒ぎが起こるようにと。「ペテロはどうなったのか？」、と。そして、願わくはその騒ぎが神への賛美とご栄光を現わさんことを！　アーメン。

　

ペテロはどうなったのか？［了］

ｽ

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