Comfort for Those Whose Prayers are Feeble

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弱々しく祈る者たちへの慰め

NO. 3083

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1908年3月12日、木曜日発行の説教

説教者：C・H・スポルジョン
於ニューイントン、メトロポリタン・タバナクル

「救いを求める私の叫びに耳を閉じないでください」。――哀3:56

　恵みにおける若い初信者は、先輩の弟子たちと自分をくらべて落胆することが非常に多い。経験を積んだ聖徒たちも、同じ習慣に陥る。彼らは、神の民の中でも、山上にいて、その《贖い主》の御顔の光を楽しんでいる人々を見ては、わが身の状態と、そうした聖徒たちの喜びとを引きくらべ、自分に対してひどい宣告を書きたてる［ヨブ13:26］。そして、自分など神の民ではないに違いないと結論する。こうした成り行きは馬鹿げており、子羊が、自分は育ちきった羊でないから群れの一員ではないのではないかと疑うようなものである。あるいは、病気の人が、自分は健康な人のように歩いたり走ったりできないから、自分など存在していないのではと疑うようなものである。しかし、こうした悪習慣が非常によく見受けられる以上、そのように打ちしおれ、意気消沈した人々を探し出し、慰めることは私たちの義務である。それこそ、この短い講話における私たちの用向きである。私たちには《主人》のことばが聞こえる。「慰めよ。慰めよ。わたしの民を」［イザ40:1］、と。そこで私たちは、主の御霊の御助けにより、そのみことばに従おうと努めるであろう。

　祈りのしかたについて、多くの人々が打ちしおれるのは、彼らがまだ先輩の信仰者たちのようには祈れないからである。あるいは、霊的な歩みにおいて何か重大な局面に差しかかったとき、自分の祈りが、他のキリスト者たちの場合のように熱烈なものとも、受け入れられるものでもないように思えるからである。ことによると、神は、今のこの語りかけにおいて、どこかの悩める人々に対する使信を有しておられるかもしれない。願わくは聖霊が力強くそれをそのような人に当てはめてくださるように！

　「私の息づかい……に耳を閉じないでください」<英欽定訳>。これは、祈りの描写としては異様なものではないだろうか。往々にして祈りには声があると云われる。この節でもそうである。「あなたは私の声を聞かれました」。祈りは、私たちの《天におられる父》の御耳の中では、旋律の美しい音色をしている。また、往々にして祈りは叫びによって表現される。この節でもそうである。「私の叫びに耳を閉じないでください」。叫びは、悲しみを示す自然で、物悲しい発声であり、赤子の泣き声が母親の優しい心を感動させるのと同じくらい神の心を動かす力を有している。しかし、時として私たちは声によっても、叫びによってさえも語ることができないときがある。そのとき、祈りを表わすのは、唸りか、呻きか、涙である。――「積める吐息と、こぼるる涙」である。しかし、もしかすると、そこまでも行かないことがありえる。そして、ひとりの古人のように、こう云うしかないことがありえる。「つばめや、つるのように、私は泣き……ました」［イザ38:14］。私たちの祈りは、他の人々の耳には、支離滅裂な鳴き声の一種に聞こえることがありえる。私たちは自分が、知性ある人間として祈っているのではなく、まるで傷ついた獣のように唸り声をあげているかのように感じることがありえる。そして、それよりも下落することがありえる。というのも、この聖句では、唸りや吐息ですらないような祈りが記されているからである。それは、息づかいと呼ばれている。「私の息づかい……に耳を閉じないでください」。この人物は、目で一瞥するよりも、心で唸るよりも、はるかに先に達してしまっており、ほとんど息づくことさえできないでいる。だが、その微弱な息づかいが祈りなのである。人間の耳に届きうる、いかなる音声によっても発されたり、表現されたりしていなくとも、神はご自分のしもべの魂の息づかいを聞いて、御耳をお閉じにならない。

　私たちは、この「息づかい」という表現が用いられていることから、3つか4つの教訓を教えたいと思う。

　I.　《私たちが、自分の願うようなしかたで祈れないときには、自分にできるしかたで祈るのが良いことである》。

　肉体的に弱まっているからといって、それは決して祈りをやめる云い訳にすべきではない。たとい私が、からだの弱さゆえに膝をかがめることができないとしても、寝床で発した私の祈りは、嘆願の調子としては膝まずいたものとなるべきである。私の心は膝まずいたものとなるべきであり、以前と同じように受けいられるように祈るべきである。真実な心は、からだが苦しんでいるからといって祈りをゆるめたりせず、むしろ、そういう折には普通、倍増しで請願する。ヒゼキヤのように、彼らは自分の顔を壁に向け［II列20:2］、地上のいかなる物も見えないようにした上で、目に見えないものを仰ぎ見て、《いと高き方》と言葉を交わす。左様。そして、しばしば、健康で力強かった頃にまして、甘やかに、また親密なしかたでそうする。もし私たちが非常に弱々しい状態にあり、気息奄々と横たわっているしかないとしたら、あらゆる息づかいを祈りとするがいい。

　また、真のキリスト者はその祈りを、精神的な困難ゆえにゆるめるべきでもない。これは、思いをかき乱し、思念の集中を妨げるような種々の動揺のことである。そうした苦しみは私たちに起こるものである。私たちの中のある者らは、しばしば苦悩させられ、往々にして右に左に思いを揺さぶられるあまり、もし祈りが、難解な数学問題を解くときのように、精神機能のすべてを最上に整えた上でなければ行なえない働きだったとしたら、そのようなときには全く祈ることができないはずである。しかし、兄弟たち。精神が非常に重苦しくなるときには、祈りをやめるべきではなく、むしろ、私たちの懇請をさらに倍加すべきときである。私たちのほむべき主なる《主人》は、精神の苦悩によって、はなはだしく悲痛な状態に追いやられた。主は云われた。「わたしは悲しみのあまり死ぬほどです」［マタ26:38］。だが、それを理由に、「わたしは祈れない」、とは仰せにならなかった。むしろ逆に、かつて知ったる橄欖の木陰を求めては、そこでご自分の重い心のうちを打ち明け、主の前に水のようにご自分の魂を注ぎ出された。私たちは決して、自分の状態が悪すぎるとか、心乱れすぎているといって、祈れないと考えてはならない。キリスト者は決して、「私は祈れる気分ではない」、と云うしかないと感じるような精神状態に陥るべきではない。あるいは、たといそうした状態に陥っても、祈れる感じがしてくるまで祈るがいい。ふさわしい気分がしないからといって祈らないのは、「私は病気が重すぎるので、薬を服用しません」、と云うようなものである。祈れるように祈るがいい。御霊の助けによって祈ることによって、自分を祈りの心持ちへと向かわせるがいい。鉄は熱いうちに打つのが良いが、ある人は冷たい鉄を打つことによって熱くする。時として、食べているうちに、食欲が出てくることもある。ならば、祈れるまで祈るがいい。神があなたを助けてくださるのは、あなたが義務を果たそうとしているときであって、義務をないがしろにしているときではない。

　同じことは、霊的な病に関しても云える。時として、病気に冒されているのはからだでも、精神でもなく、むしろ、私たちの内なる性質が鈍重で、無感覚で、無気力になってしまい、祈りの時が来ても、祈りの霊を感じないことがある。さらに、ことによると、私たちの信仰が衰えているかもしれない。では、信仰がこれほど弱まっているとき、いかにして祈れば良いだろうか？　もしかすると私たちは、そもそも自分が神の民かどうか疑わしくなっているかもしれない。また、自分の数々の短所が思い起こされて妨害されているかもしれない。そのとき、試みる者が囁くであろう。「今は祈ってはならない。お前の心は、祈るにはふさわしくない状態にあるのだ」。私の愛する兄弟。あなたは、贖いのふたから遠ざかっていることによって、祈りにふさわしくなることはないであろう。むしろ、その下で呻いているか、息づいていることこそ、主の前に嘆願するための最上の備えである。私たちは、自分が神のもとに正しく行けるように、自分で自分の心を整えることを目指すべきではないが、「人は心で備えをする。主はその舌に答えを下さる」［箴16:1 <英欽定訳>］。もし私が祈りたくない気分にあるとしたら、そのときこそ、それまで以上に祈る必要のあるときである。もしかすると、魂が神との交わりの中で小踊りして喜んでいるときには、祈りを控えた方が安全かもしれない。静思の時に魂がのろのろ歩くこうした時期よりも！　悲しいかな！　私の主よ。私の魂はあなたからふらふらとさまよい出してはいないでしょうか？　ならば、私の心よ。戻って来るがいい。私はお前を恵みの力によって引きずり戻そう。私は、やむことなく叫び続け、神の御霊がお前をその忠義へと立ち戻らせるまでそうしよう。何と、私のキリスト者である兄弟よ。あなたは暇に感じているからといって、自分の手を止め、神に仕えないでいて良いだろうか？　否。むしろ、あなたの無為を放り出し、決然とあなたの魂をかがめて奉仕するがいい。そのように、祈れないと感ずるときには、一層祈りに没頭するがいい。悔い改められないことを悔い改め、呻けないことを呻き、祈れるようになるまで祈るがいい。そうすることにおいて、神はあなたを助けてくださるであろう。

　しかし、こう反対されるかもしれない。時として私たちは、種々の環境という点で大きな困難の下に置かれることがあるのです。ならが私たちは、祈りを免除されて良いはずです、と。兄弟たち。いかなる環境においても、何らかの形で祈ることをやめるべきではない。「ですが、私には非常に多くの心配事があるのです」。私たちの間の誰が、そうしたものと無縁だろうか？　もし私たちが、一切の心配事がなくなるまで決して祈らないとしたら、確かに私たちは全く祈らないか、もはや祈りの必要などなくなるまで祈らないはずである。アブラムはいけにえを神にささげたとき何をしただろうか？　この族長が、指定された生き物をほふり、それを祭壇の上に置いた後で、禿鷲だの鳶だのがやって来て、その上を舞い回った。聖別された肉に飛びかかってわしづかみにしようというのである。この族長は、そのとき何をしただろうか？　「猛禽がその死体の上に降りて来たので、アブラムはそれらを追い払った」［創15:11］。そのように私たちも恵みを求めて、自分の静思の時から心配事を追い払うべきである。主があの貧しい女の油を増やそうとしておられたとき、あの預言者が彼女に与えたのは賢明な指示であった。「油のつぼを取りなさい」、と彼は云った。「油をついで、借りて来た器をいっぱいにしなさい」。だが彼は、それ以外に何と云っただろうか？　「あなたのうしろの戸を閉じなさい」*［II列4:4］。もしその戸が開いていたなら、彼女の口さがない隣人たちがのぞき込み、こう云ったであろう。「何をしているのですか？　あなたはこうした瓶だの何だのを、その小さな油のつぼで一杯にしようと本当に期待しているのですか？　何と、婦人よ。あなたは気違いに違いありません！」　残念ながら、もし反対者たちを閉め出さなければ、彼女がその信仰の行為を行なうことはできなかったのではないかと思う。魂が、気を散らす物に対して扉に閂をかけ、そうした侵入者たちを閉め出すとき、それは大きなことである。というのも、そのときこそ、祈りと信仰はその奇蹟を行ない、私たちの魂は主の祝福で満たされるからである。おゝ、種々の環境に打ち勝ち、少なくとも――それ以上に力強い形にできなくとも――祈りを息づかせることのできる恵みがあればどんなに良いことか！

　しかしながら、ことによると、あなたはこう断言するかもしれない。自分たちの種々の環境は、先生に想像がつくものより困難なのです、と。というのも、あなたは、あなたをあざける人々に取り囲まれており、それに加えて、サタンそのひとがあなたを妨害しているからである。あゝ！　ならば、愛する兄弟姉妹。そうした環境下にあるときは、祈りを控える代わりに、十倍も勤勉になるがいい。あなたの立場は群を抜いて危険である。あなたは、恵みの御座から遠くで生きる余裕はない。それゆえ、そうしよう試みてはならない。脅かされている迫害について云えば、それをものともせずに祈るがいい。ダニエルがいかに自分の窓を開けて、それまでしていたのと同じように自分の神に祈ったか思い出すがいい［ダニ6:10］。祈りの私室において、ダニエルの神をあなたの神とするがいい。そうすれば、神は獅子の穴の中でもあなたの神となってくださるであろう。悪魔について云えば、何にもまして彼を追い払うものは、祈りであることを確信するがいい。次のように宣言する二行連句は正しい。――

　　　「サタンは怯えん　いかに小さき
　　　　聖徒（たみ）の祈るを　見ゆときも」。

あなたの立場がいかなるものであれ、もしも語ることができなければ、叫ぶがいい。叫べなければ、呻くがいい。呻けなければ、「言いようもない深いうめき」［ロマ8:26］を上げるがいい。そして、もしもそこまでも行けなければ、あなたの祈りを少なくとも1つの息づかいにするがいい。――生きた、真摯な願い、あなたの内なるいのちを、最も単純な、また最も弱い形にして注ぎ出すがいい。そうすれば、神はそれを受け入れてくださるであろう。一言で云うと、あなたが願うようなしかたで祈れないときには、あなたにできるしかたで祈るようにするがいい。

　II.　しかし今、第二の教えの言葉に移ろう。この聖句からも、他の多くの聖書箇所からも、そして、一般に観察されるところからも明らかなように、《最上の人々も、通常は、自分自身の祈りに最大の欠陥を見いだしてきた》。

　その理由となるのは、そうした人々が生きた祈りを本当に真剣にささげており、自分で表現できるものをはるかに上回ることを感じているからである。単なる形式尊重主義者は、常に祈って満足することができる。彼はただ、自分の祈祷書を開き、あらかじめ決まった言葉を読み上げるか、膝まずいて、自分の記憶か想像力に思い浮かんだ語句を繰り返せば良いだけなのである。韃靼人の祈り器のように、巻いて一回転させれば、お勤めは完璧に済んだことになる。そのように多くの人々は膝をかがめ、声を上げては、祈りを済ませている。形式尊重主義者たちの祈りは、常に良いものである。あるいは、むしろ、常におしなべて悪いものである。しかし、神の生きた子どもは、決して自分を喜ばせるような祈りをささげることがない。その人の基準は、その人が達成できるところよりも高い。その人は、神が自分に耳を傾けてくださることに驚き、キリストゆえに自分の祈りが聞かれていることを知ってはいるが、それでもそれを、へりくだり給うあわれみの驚くべき実例とみなす。自分の祈りのように貧しいものが、安息日の主なる神の御耳に届くというのである。

　いかなる点で聖なる人々が、自分の祈りに欠陥を見いだすのかと問われるならば、私たちはこう答えよう。彼らは、自分の願いの狭さについて不平を云う。おゝ、神よ。あなたは私に私の口を大きく開け、そうすれば、わたしがそれを満たそう、と命じておられます。ですが、私は自分の口を開いていません！　あなたは私に、いつでも大いなる事がらを授けようとしておられますが、私には大いなる事がらを受け入れる備えができていません。私はせばめられていますが、あなたのうちに閉じ込められているのではありません。私は自分自身の願望が狭苦しいものなのです。愛する兄弟たち。ヒュー・ラティマーについては、彼が不断に膝まずき、こう叫んでいたと記されている。「おゝ、神よ。福音を英国にお戻しください」。そして、時としてあまりにも長く祈りすぎていたため、老人となっていた彼は立ち上がれなかったという。そこで人々は彼を牢獄の床から引き起こさなくてはならなかったが、彼はなおも叫び続けるのだった。「おゝ、神よ。福音をあわれな英国にお戻しください」。私たちは、私たちの中のある者らが、同じようなしかたで祈っていないことを訝しがって良いであろう。時代は、ラティマーの頃と同じくらい悪く、私たちには彼と同じように祈るべき大きな必要がある。「おゝ、神よ。この教皇制を再び追い払ってください。そして、福音を英国にお戻しください」。それから、ジョン・ノックスについて考えてみるがいい。何と、この人物の祈りは力にかけては強大な軍隊に似ており、彼は、スコットランドに神が福音の光をともしてくださるよう、夜を徹して神と格闘するのだった。彼は、自分の望みが遂げられたと断言した。そして、私もそう信ずる。スコットランドにあれほど明るい光が輝いている大きな理由は、この人物の数々の請願にあると思う。私たちは、こうした人々のように祈ってはいない。私たちには大きな事がらを求めるだけの心がない。信仰復興は待っている。雲が英国の上を漂っている。そして、私たちはそれをいかにして引き下ろせば良いか分からないでいる。おゝ、神が幾人かの真実な霊を見いだし、彼らが天来の火を引き下ろすための導管となるならどんなに良いことか！　私たちはその火を大いに必要としているが、私たちのあわれな息づかい――それ以上のものにはほとんどならない――には何の力もなく、何の広がりも、何の大きな心も、何の有力さもないのである。

　それから、いかに私たちは、信仰の問題においてはるかに大きな失敗を犯すことか！　私たちの祈り方は、まるで信じていないかのようである。信仰に満ちた祈りは、遮二無二つかみかかり、格闘するが、私たちの祈りは単に息の短い一吹きの風であり、小さな息づかいでしかない。――それ以上のものではない。神は真実であられるが、私たちは神が偽りであるかのように祈っている。神は本気で仰せになっているが、私たちは神のみことばを、まるで冗談で語られたかのように扱っている。私たちの祈りの最大の欠陥は信仰の欠けである。

　いかにしばしば私たちは熱心さを欠いていることか！　マルチン・ルターのような人物たちは、天を意のままにした。なぜなら、そうしようとしたからである。神の御霊は、彼らをとりなしにおいて断固たる者とし、彼らは自分の訴えがかなえられるまで、贖いのふたのもとから去ろうとしなかった。だが、私たちは冷淡で、結果として弱々しく、祈祷会や、密室や、家庭の祭壇における私たちのあわれなあわれな祈りは、弱り衰え、死なんばかりになっている。

　悲しいかな、私たちの祈りのいかに大きな部分が、不純な動機によって損なわれていることか！　私たちは信仰復興を求めるが、自分自身の教会がその祝福を受けることを望む。そして、自分たちがその栄誉を担いたいと願う。私たちは神が自分たちの働きを祝福してくださるように祈る。それは、人々が私たちのことを何と素晴らしい働き人だろうと云うのを聞きたがっているからである。その祈り自体は良いものだが、私たちの汚れた指がそれを台無しにしている。おゝ、私たちがしかるべきしかたで請願をささげることができたならどんなに良いことか！　神はほむべきかな。私たちの祈りを私たちに代わって洗いきよめることのできる《お方》がおられる。だが、まことに、私たちの涙そのものについて涙される必要があり、私たちの祈りのことは、さらに祈られなくてはならない。私たちが行なうことのできる最上のことさえ、血で満たされた泉で洗いきよめられる必要がある。さもなければ、神はそれを罪としかみなすことがおできにならないであろう。

　善良な人々が自分の請願の中に見てとる、別の欠陥はこのことである。彼らは、祈りにおいて神から非常に遠い所に立っている。彼らは十分神に近づくことをしない。あなたがたの中のある人々は、自分と神との間にあるこの距離感によって苦しめられていないだろうか？　あなたは神がおられることを知っており、あなたに答えてくださると信じている。だが、あなたは必ずしも常に真っ直ぐに神のもとに行くことがない。その御足のもとに行って、いわばこのように云うことさえない。「おゝ、私の父よ。あなたがお選びになった者の声をお聞きください。御子の血の叫びが、御前に立ち上るようにさせてください！」　おゝ、幕の内側に入り、贖いのふたへと近づく祈りがあればどんなに良いことか！　おゝ、そのケルビムになじみ深く、その翼の間にきらめく輝きになじんでいる嘆願者たちがいればどんなに良いことか！　願わくは神が私たちを助けて、より良く祈らせてくださるように！　しかし、このことを私は確信している。――あなたがた、最も力ある訴えをしている人は、自分自身の祈りのことを最も取るに足らないものと考え、神が自分などに耳を傾けてくださることを最も感謝している人々である。そして、神が自分を助けて、より高貴なしかたで祈らせてくださることを切望している人々である。

　III.　第三の教訓はこうである。――《祈りの力は、その外的な表現によって測られるべきではない》。

　1つの息づかいは、神がその耳を閉じることのない祈りである。私たちの祈りはその表現に比例して力が強いわけではない。これは偉大な真理であり、大きな慰めに満ちてもいる。そうでなければ、あのパリサイ人は大きな成果を上げたことであろう。彼は明らかにあの《取税人》よりも種々の大きな賜物を有していたからである［ルカ18:10-12］。疑いもなく、もしもその頃、定期的な祈祷会があり、あのパリサイ人と《取税人》が出席していたとしたら、私たちはパリサイ人に祈るよう求めていたはずである。私は、神の民が彼の祈りを喜んだり、彼と霊の親近感を覚えたりするとは思わないが、それでも、ごく自然と彼は、その数々の賜物により、公の祈祷を行なう責任を担うことになるであろう。あるいは、もしあのパリサイ人がそうしようとしなくとも、私は他のパリサイ人たちがそうしようとするのを聞いてきた。疑いもなくその人の霊は悪いものだったが、彼の云い回しは良いものだった。彼は自分の雄弁を非常に巧みに云い表わし、それを非常に正確に注ぎ出すことができた。いかなる人も、神がそうしたものをお好みにならないことを知るがいい。あの《取税人》の吐息は神の御耳に届き、祝福をかちとったが、パリサイ人の自慢たっぷりの語句は神にとって忌み嫌うべきものであった。

　もし私たちの祈りが、その表現に比例して力あるものだったとしたら、修辞的技巧の方が恵みよりも価値あることとなり、学者的な教育の方が聖化よりも良いことになるであろう。だが、そうではない。あなたがたの中のある人々は、非常に流暢に、天賦の才の力によって思うことを述べることができるかもしれない。だが、私たちにとって常に切実であるべき疑問は、果たして私たちの祈りが神に受け入れられるものかどうか、ということである。というのも、私たちも、もうそろそろ分かっているべきであり、分かっているに違いないが、私たちが最上の祈りをささげるとき、それはしばしば、私たちがつっかえたり、口ごもったりしながら祈るときであり、私たちが最悪の祈りをするのは、言葉が立て板に水のように次々と出てくるときだからである。神は言葉によって感動させられることはない。それは神にとっては騒音でしかない。神はただ深い思念と、霊の内奥に宿っていて、こみあげる情緒によってのみ感動させられる。もし神が、私たちの発声の美しさによってのみ私たちの話を聞くのだとしたら、それは、あなたがた、貧しい人たちにとって、悲しい務めであったであろう。というのも、あなたの教育はないがしろにされてきたあまり、あなたが文法的に正しく語れる見込みは全くないかもしれないからである。それに、あなたの限られた知識からすると、あなたは耳障りの良い語句を用いることができないであろう。しかし、主は貧しい者、無知な者、困窮する者の言葉を聞いてくださる。彼らの叫びを聞くのを愛しておられる。祈りの文法的正しさになど神が何の関心を持たれるだろうか？　祈りの魂をこそ神はお求めになる。そして、もしあなたが標準語を三語と正しく綴り合わせることができなくとも、それでも、もしもあなたの魂がいかにしてか《いと高き方》の御前に息づくことができるとしたら、――もしもそれが暖かく、心からの、真摯で、熱心な嘆願でありさえしたら、あなたの祈りには力があり、途切れ途切れの言葉にもかかわらず、そこには力がある。また、そうした言葉がよどみないもので、筋道だったものであったとしても、主に関する限り、それはあなたの得には全くならないであろう。ならば、それは私たちにとって慰めではないだろうか？

　たとい私たちが表現上手な才能を授けられていたとしても、私たちの発語能力は期待を裏切ることがある。非常に重い悲嘆の下にあるとき、人は常のようには語ることができない。種々の環境は、いかに雄弁な舌をも訥弁にしてしまうことがある。だが、それは問題ではない。あなたの祈りは、以前と同じくらい良いものである。あなたは公の祈りを神にささげる。それから腰を下ろして、自分の混乱した祈りは教会にとって何の益にもならなかったと思う。あなたは知らないのである。神がいかなる秤であなたの祈りをお量りになるかを。すなわち、量ではなく質によって、また、言葉遣いの外側の衣ではなく、その中にある内なる魂と強い真剣さによって、神はその価値を算定される。あなたは時として、自分の小さな部屋の中で膝まずいていた後で立ち上がり、こう云うことはあるだろうか？　「私は祈ったとは思わない。私は祈りにおいて自由な気分がしなかった」。十度のうち九度まで、こうした、私たちが最も受け入れられないと思う祈りは最も神に対して力を発揮するのである。だが、私たちが自分の祈りに得々とするとき、神はそれとは何の関わりも持とうとなさらないであろう。もしあなたが、あなた自身の請願に何らかの美しさを見てとるとしたら、神はそれをご覧にならないであろう。というのも、あなたは明らかに自分の祈りに目をとめていて、神に目をとめていなかったからである。しかし、あなたの魂が神のご栄光を見てとるあまり、「いかにして、ちりや灰にすぎない私があなたに申し上げることができましょう？」、と云うとき、また、神のいつくしみ深さを見てとるあまり神ご自身の謙卑の深みによって、表現が妨げられるほどであるとき、おゝ、そのときこそ、あなたの祈りが最上になるときである。1つの呻きの中にある祈りは、祈祷書全体の中にある祈りよりも大きな祈りでありえる。向こうの会衆席の床を湿らせている涙の一滴には、私たちが歌ってきた賛美歌全曲、あるいは、私たちが口にしてきた一切の請願よりも多くの受け入れられる祈祷が含まれていることもありえる。外側ではなく内側を、また、唇ではなく心を、主は顧みてくださる。もしあなたが息づくことだけでもできるなら、なおもあなたの祈りは《いと高き方》によって受け入れられる。

　私が願うのは、この真理が、「私は祈れません」、と云っている、あなたがたの中のあらゆる人の心に突き入れられることである。祈れないなどということはない。もしも、祈るためには十五分間ずっと語り続けるべきであるとか、洗練されたことを云うべきであるとしたら、私もあなたが祈れないと認めるであろう。だが、もしそれが、「神様。こんな罪人の私をあわれんでください」、と心から云うだけのことだとしたら、左様。また、もし祈りが何かを云うことなどでは全くなく、あわれみを、また、赦罪を、また、救いを願い、切望し、希望することだとしたら、いかなる人も、「祈れません」、などと云うことは許されない。それを許されるのは、その後で正直にこう云い足せる人だけである。「私が祈れないのは、祈りたくないからです。私は、自分の罪をあまりにも愛しており、キリストを全く信じてなどいません。私は救われたいと願っていないのです」、と。もしあなたが祈ろうとするなら、おゝ、話をお聞きの方々。あなたには祈れるのである！　意志を与えてくださるお方は、そうする能力も添えてくださるであろう。

　そして、おゝ！　云わせてほしいが、祈りの力を試して、実証するまでは、夜眠らないようにするがいい。もしあなたが心に重荷を感じているなら、そのことについて主に告げるがいい。あなたの顔を覆い、主と語り合うがいい。それすらも、する必要はない。というのも、エリがハンナの唇が動いているのを見て、彼女を酔っているものと思い込んだとき、彼女は顔を覆っていなかったと思うからである。否。唇を動かすことすら必要ない。あなたの魂は今こう云える。「私をお救いください。私の神よ。私に罪を確信させ、私を十字架にお導きください。今晩、私をお救いください。もう一日たりともあなたの敵として過ごさせないでください。もう一週間たりとも、罪を赦されず、あなたの御怒りが雷雲のように私の上に垂れ込めたまま、日々の思い煩いの中に入らせないでください！　お救いください、お救いください、おゝ、私の神よ！」　こうした祈りは、全く言葉なしに発されても、無力であることはなく、天で聞かれるであろう。

　IV.　私たちは第四の実際的な教訓でしめくくることにしよう。――《弱々しい祈りは天で聞かれる》。

　なぜ弱々しい祈りは神に理解され、天で聞かれるのだろうか？　3つの理由がある。

　最初に、弱々しい祈りは、真摯なものであれば、聖霊によって心に書き記されており、神は常に聖霊の手書き文字を認めてくださる。しばしば、スコットランド出身の、何人かの親切な友人たちは、先日その中のひとりが「不浄の富」と呼んだもの――すなわち、汚い一ポンド紙幣――の何がしかの部分を《孤児院》のため私に送ってくれる。さて、こうした一ポンド紙幣は確かに、あたかも小さな価値しかないように見える。それでも、それらは適切な特性を帯びており、十分に通用する。また、私はそれらについて非常に感謝している。聖霊によって心に書き記された多くの祈りは、薄墨で書かれたように思われ、さらに私たちの不完全さによって拭い去られ、汚されているように見受けられる。だが、聖霊は常にご自分の手書き文字を読むことがおできになる。御霊はご自分の筆跡をご存知である。そして、ご自分がある祈りを発させたときには、それをご自分のものでないと仰せになることはない。それゆえ、聖霊が私たちのうちに作り出される息づかいは、神に受け入れられるであろう。

　さらに、私たちの永遠にほむべき父なる神は、ご自分のどの子どもたちの息づかいをも即座に聞き取る耳を持っておられる。ある母親に病気の子どもがいる場合、その子に付き添っている際の彼女の耳がいかに鋭くなるかは驚嘆すべきものがある。善良な婦人よ。彼女が眠り込まないのは実に不思議である。子守女を雇ったとしたら、十中八九、その女は眠り込むであろう。しかし、愛しいその子が深夜に水を求めて泣き叫ぶ必要はない。口を利く必要すらない。小さな、即座の息づかいがある。――それを誰が聞くだろう！　母親でなければ誰にも聞こえない。だが、彼女の耳は非常にさとい。というのも、それはわが子の心臓の中にあるからである。そのように、もし世に神を切望する心が1つあるなら、神の耳はすでにその罪人の心の中にある。神はそれをお聞きになるであろう。地上にある善良な願いのうち、主が聞いておられないものはない。私はある時のことを思い出す。そのとき私は、罪人としての罪人たちに、福音を宣べ伝えることに少し不安を感じていた。だがしかし、私はそうしたかったため、こう云った。「もし、あなたに百万分の一の願いがあるなら、キリストのもとに来るがいい」、と。おそらく今の私は、こうしたこと以上のことを云うであろう。だが、それと同時に、すぐさまこう云うであろう。――もしあなたに百万分の一でも願いがあるなら、もしあなたにほんの小さな息づかいがあるなら、――もしあなたが和解させられることを願い、赦罪を願い、赦されることを願い、自分の魂の中に半分でも良い思念があるなら、それを食い止めてはならない。その息の根を止めてはならない。そして、神がそれを拒絶なさると考えてはならない、と。

　それから別の理由もある。すなわち、主イエス・キリストは、常に最も不完全な祈りをも取り上げて、それを私たちに代わって完成させてくださる。もし私たちの数々の祈りがそのまま天に上って行かざるをえないとしたら、それは決して良い結果を生まないであろう。だが、それらは途中でひとりの《友》を見いだし、それゆえ、見事な成功を収めるのである。ひとりの貧しい人が、ある政府役職者に申し送るべき嘆願を有していた。そして、もし彼がそれを自分で書かなくてはならなかったとしたら、彼が何を云いたいか読み解くにはダウニング街の役人が束になっても匙を投げたことであろう。だが、彼は賢明にも文字を書ける友人を見いだすか、自分の教役者の所に赴いてこう云う。「先生。あっしに代わって、この嘆願書を正しく書いてもらえねえでしょうか？　それを正しい国語で綴って、提出できるようなもんにしていただけねえでしょうか？」　その場合、この嘆願は非常に異なる形で進んで行く。それと全く同じように、主イエス・キリストは私たちのあわれな祈りを取り上げて、それをもう一度形作り、ご自分の署名をつけ加えてその嘆願を提出してくださる。すると主は、私たちに平安な答えを送ってくださるのである。

　この世で最も弱々しい祈りも、キリストの証印をその上に帯びているときには、つまり、主はご自分の尊い血をその上に注いでくださるときには聞かれる。そして、神がキリストの血をご覧になるところではどこでも、それが裏書きする願いを受けて入れてくださるに違いなく、受け入れてくださるであろう。罪人よ。イエスのもとに行くがいい。たとい祈れなくとも、あなたの魂でこう息づくがいい。「私をあわれんでください。私を洗い、私をきよめ、私を救ってください」。そうすれば、それはなされるであろう。というのも、神はあなたの祈りというよりは、ご自分の御子の血をお聞きになるからである。その血は、「アベルの血よりもすぐれたことを語る」［ヘブ12:24］。あなたの声よりも大きな声があなたのために功を奏し、あなたの弱々しい息づかいは、この偉大な大祭司の全能の訴えで全面を覆われて神のもとに上ることになる。そして、この大祭司の求めが無駄になることは決してない。

　このようにして私は、自分は祈れないと云う、苦悩する者たちを慰めることを目指してきた。だが、しめくくりの前に一言つけ足さなくてはならない。こうしたすべてのことを知りながら、祈りなく、神なく、キリストなしであり続ける者たちに、いかに弁解の余地がないことか！　もし受けるべき何のあわれみもなかったとしたら、あなたがそれを受けないことで非難されることはありえないであろう。もし罪人たちのために何の《救い主》もいなかったとしたら、罪人は自分の罪のうちにとどまっていることについては大目に見られて良いかもしれない。しかし、そこには1つの泉があり、それは開かれているのである。では、なぜその中で身を洗わないのか？　あわれみは、「金を払わないで……代価を払わないで」［イザ55:1］受けることができる。――求めるだけで得られる。時として、あわれな人々が、死刑囚独房に閉じ込められ、絞首刑の判決を受けていることがある。だが、かりに彼らが求めさえすれば無条件赦免が得られるとして、それを求めないという場合、誰が彼らを憐れむだろうか？　神は、心動かされて、祝福を神の御手から受けようと真摯に求めるあらゆる者にその祝福を与えてくださる。その唯一無二の条件はこうである。――その魂がイエスに信頼することである。そして、それでさえ、条件ではない。というのも、神は悔い改めと信仰を与え、罪人たちがご自分の愛する御子を信じるようにしてくださるからである。十字架につけられたキリストを眺めるがいい。日輪が眺めた光景の中でも最も悲しく、だが、最も喜ばしい光景である！　悲哀と愛との卓越した驚異である！　一目この方を仰ぎ見れば、あなたは救われるであろう。あなたがたは、墓場の瀬戸際にあろうと、地獄に落ちる寸前であろうと、十字架につけられたキリストを一目見るなら、あなたの咎は抹消され、あなたの負債は永遠の神の御座の前で帳消しにされる。そしてあなた自身は喜びと平安の中に導き入れられる。おゝ、あなたがそのように仰ぎ見るならば、どんなに良いことか！　この祈りを囁くがいい。「主よ。私にあなたの選民の信仰を与え、私を大いなる救いでお救いください！」　それは単なる囁きでしかなくとも、古の清教徒が云うように、神がご自分の子どもの息づかいを御顔に感じるとき、神は微笑まれる。そして、神はあなたの息づかいを感じて、あなたに微笑みかけ、あなたを祝福してくださるであろう。願わくは神がそうしてくださらんことを。その御名のゆえに！　アーメン。

　

弱々しく祈る者たちへの慰め［了］

ｽ

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