Two Ancient Proverbs

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2つの古代の箴言

NO. 3080

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1908年2月20日、木曜日発行の説教

説教者：C・H・スポルジョン
於ニューイントン、メトロポリタン・タバナクル
1874年3月29日、主日夜の説教

「人を恐れるとわなにかかる。しかし主に信頼する者は守られる」。――箴29:25

　ここには2つの古代の箴言がある。それぞれは、独立した箴言として真実であり、互いに結び合わされたときも、同じくらい真実である。人を恐れると罠にかかる、という単独の命題は、多くの人々が体験的に教えられてきた1つの真理である。主に信頼する者は守られる、というもう1つの命題も、それを試してみたすべての者によって、ほむべきしかたで真実であると見いだされてきた。では、この2つの命題を1つに合わせてみるがいい。――人を恐れると罠にかかる。しかし主に信頼するれば、その罠から確実に守られる。――これもまた真実である。

　I.　まず第一に、しばしの間、この2つの古代の箴言の最初の方を考察しよう。「人を恐れるとわなにかかる」。これは、《私たちが避けなくてはならない大きな悪の1つ》である。

　人への恐れは、何とよく見受けられる悪であろう。――人の是認を失うことに対する恐れ、人の怒りを買うことへの恐れ。世には、神を全く恐れないのに、人を大いに恐れている人々がごまんといる。そうした人々は、平気で神の律法を破っては、それに続くに違いない結果などまるで恐れないのに、人間の法律を破ることは恐れる。降りかかりかねない罰を大いに恐れるからである。そうした人々は地獄をこわがらないが、地上の牢獄をこわがる。《全能者》の御腕には恐怖しないが、肉の腕をこわがる。

　人を恐れることは、ある人々によると、非常に良いもの、有益なものと考えられてきた。罠をかけるどころか、それは人々の間で多くの罪を妨げる手段であると彼らは考える。さて私も、一部の人々が人を恐れるがゆえに、種々の大きな犯罪や公然たる不正行為を犯すことを阻まれていることは疑わない。だが、人への恐れがせいぜいもたらせるのは、非常に疑わしい利益でしかない。あなた自身の家庭で、子どもたちを相手にそれを試してみるがいい。もしあなたの子どもたちが悪いことを行なわずにいるのが、ただあなたを恐れているためでしかないとしたら、――もし彼らが云いつけられたことをするのが、ただ、それ以外のことを行なうのをこわがっているためだけだとしたら、――あなたは非常に情けない形の従順しか得られないであろう。そして、それと同時に、おびただしい数のごまかしや欺きが生じるであろう。というのも、あなたの子どもが悪いことをしてしまったとき、その子は罰を恐れて嘘をつくよう駆り立てられ、ことによると、嘘で嘘を塗り固めることになるかもしれない。そして、その子にとっては、嘘があまりにも普通のこととなり、最後には嘘をつくことが真実を語るのと同じくらい自然なこととなるであろう。そして、どんな親も知るように、ある子どもが犯すことのありえる過ちをことごとく秤に乗せたとしても、それは、その悪辣さと、その子自身の霊的なあり方にとっての有害さという点においては、ただ1つの嘘ともくらべものにならないと思う。嘘をつける力は、人が到達しうる力の中でも、最も憎むべきものの1つである。そして、一部の子どもたちは、あまりにも大きな恐怖状態に置かれと、自然と嘘をつくことを覚えてしまうのである。また、召使いたちも、四六時中、恐れさせておかなくては、管理できないと思われている。だが、あなたがたはみな、陰日向ある勤めぶりがいかなるものかを知っているはずである。きちんと筋の通った召使でなければ、何の価値もない。主人や女主人の目が向けられているからというだけで働くような者たちは、ほとんど無価値である。もし彼らが絶えずあなたを恐れて暮らしているとしたら、あなたは単に彼らに欺きの癖を教え込んでいるにすぎない。この実験は、大規模になされてきた。数々の法律が作られ、違反すれば厳しい罰が下されたが、人々はまるで、いやが上にもそむくかのように思われた。牢獄では、この上もなく厳格な形の懲罰が試されたが、囚人たちは再び罪を犯そうと心を決めて出獄してきた。確かに、恐れによっては、そうした者の上に、何の有益な変化ももたらされなかったのである。

　人への恐れがそれなりに役立つことは否定しないが、やはり私はこう主張しなくてはならない。恐れが人の思いと心にもたらすものは常に非常に疑わしい善である、と。私の兄弟たち。愛こそは、人の心の悪に対する壮大な治療法である。特に、上から出た愛がそうである。かのきよく、天的な炎、聖霊によってのみ灯される炎は罪を焼き尽くしてしまう。しかし、「恐れには刑罰が伴っている」［Ｉヨハ4:18］。それは魂を苦しめ悩ます以外のことをほとんど行なわない。

　ここまでは、恐れから出てくることがありえる何らかの善について述べてきたが、これから私は、この聖句に従って、こう述べることにしよう。「人を恐れるとわなにかかる」、と。それは、多くの人々を非常に大きな罪に至らせてきた。

　ピラトを見るがいい。私が最初に彼に言及するのは、彼の罪にはことのほか悪逆なものがあるからである。あのきよく聖なるイエスが彼の前に引き出されている。そして、尋問の後で彼はこう宣言している。「この人には何の罪も見つからない」［ルカ23:4］。彼は主をヘロデのもとに送るが、その結果、彼はキリストの告発者たちにこう云う。「あなたがたが訴えているような罪は別に何も見つかりません。ヘロデとても同じです。彼は私たちにこの人を送り返しました」［ルカ23:14-15］。ピラトの妻は、夢で、キリストのことで苦しい目に遭ったからといって、彼に警告し、こう云っている。「あの正しい人にはかかわり合わないでください」［マタ27:19］。ピラト自身、キリストとの会見によって心に感銘を受け、それゆえ、できるものなら《救い主》を釈放したいと思った。だが、彼は、ローマ人の総督であり、非常に高い権力の座についていたとはいえ、あわれな、民衆の奴隷であった。優柔不断であった。何が正しい方針か知っており、その道を取りたかったが、その結果を恐れた。ユダヤ人たちはカイザルに上訴し、王と僭称する男の死を彼が免じたと云うかもしれない。その場合、彼は自分の地位を失いかねない。それで、このあわれで、臆病な、軽蔑すべき男は水を取り寄せ、手を洗ってから、この正しい人の血について、自分には責任がない、と云う［マタ27:24］。そして、次の瞬間には、この罪のない犠牲者を引き渡して、十字架上に釘づけさせるのである。人への恐れによってこそ、ピラトは世界の歴史と、神の《教会》の歴史において、悪名高いものとされたし、永遠にわたって悪名高いままであろう。人への恐れによって彼は《救い主》を殺すことになった。それによって、あなたが同じ種類のこと行なわされないように気をつけるがいい。

　ピラトの時代よりはるか以前のイスラエルには、人を恐れて自分の王冠を失ったひとりの王がいた。神はサウルを選んで、その民の上に立つ者とされた。だが彼は、アマレク人を打ち、それらの持ち物すべてを滅ぼせと神から命令されたとき、アガグを生かしておき、羊や牛の最上のものを残しておいた。そして、そのすべては良いことであった。なぜなら、彼は「民を恐れて、彼らの声に従った」［Ｉサム15:24］からである。彼は自分の臣下たちよりも、頭と肩の分だけ背が高かったし、他の折々には専制君主としてふるまい、わがままを通した。だが、この特別の時には、民を恐れて、神からしてはならないと命じられたことを行なった。それゆえ、彼の王国は彼から引き裂かれ、彼にまさる者に与えられたのである。

　「しかり」、とあなたは云うであろう。「この二人は悪人だったので、人を恐れて罪に陥ったのです」。しかり。だが、残念ながら私は、同じことをした善人たちにも言及しなくてはならない。アロンを見るがいい。彼は、主に仕える祭司であり、弟モーセの同労者であった。神と話したことがあり、民に対しては神の代理であった。だが、モーセが山に上っていたとき、民がアロンのもとにやって来てこう云った。「さあ、私たちに先立って行く神を、造ってください。私たちをエジプトの地から連れ上ったあのモーセという者が、どうなったのか、私たちにはわからないから」［出32:1］。アロンは、彼らの金の耳輪を外して、自分のもとに持って来るよう命じた。そして、神の祭司である彼は、その神聖な手を汚して、民のために鋳物の子牛を造った。その前で彼らはひれ伏して礼拝した。あゝ、アロンよ！　あなたが弟と同じ勇気を持っていたなら、このように恥ずべき罪に陥りはしなかったであろう。

　再び新約聖書に目を向け、そこから実例を示すことにするが、あの大胆なペテロと、その言葉を思い出すがいい。彼は自分の主に対して熱を込めてこう語った。「ごいっしょになら、牢であろうと、死であろうと、覚悟はできております。たとい、ごいっしょに死ななければならないとしても、私は、あなたを知らないなどとは決して申しません」［ルカ22:33; マタ26:35］。だが、その少し後の彼を見てみるがいい。大祭司の庭の中で火にあたっている彼に、まず女中のひとりが、次にそばに立っている他の者たちがこう云った。「確かに、あなたはあの仲間だ」。すると、「彼はのろいをかけて誓い始め」［マコ14:70-71］、主イエス・キリストの弟子などではないと証明しようとした。あゝ、ペテロよ。あなたの勇気は今どこにあるのか？　まことに、「人を恐れるとわなにかかる」。最上の人々にとってさえ、そうである。願わくは神が私たちをそれから救い、決して人を恐れて悪い行動を取ることのない勇敢な者としてくださるように！

　さらに、人を恐れると、次のような点でも罠にかかる。すなわち、これによって多くの人々は回心から引き留められる。ことによると、今この場にはそのような人々が何人かいるかもしれない。そうした人々を見つけだせるか試させてほしい。あなたは神が祝福なさるようなしかたで福音が宣べ伝えられている場所へ行くなどということが到底できないでいる。なぜなら、そこに行くと、それが人に知られ、あなたは家庭内でからかいの種になり、聞きたくないようなことを云われるからである。多くの人々は、神が祝福を注ぎ出しておられる建物にあえて行こうとしない。そうした人々は臆病すぎて、キリストの福音を力強く説教している人の話を聞きに行けないのである。また、他の人々は、実際に行って聞きはするが、自分が何度も何度も耳を傾けてきた真理を受け入れることを恐れる。そうした人は、内心こう思っているのである。「もし私が回心したら父や母は何と云うだろうか？　おゝ、私は何という羽目に陥るだろうか？　職場の仲間は何と云うだろうか？　いったん私がキリスト者になったと彼らが知ったなら、私は方々でさんざん非難されるだろう」。別の人は云うであろう。「私は、自分が受けることになる迫害をいかにして耐えられるか分からない。私の人生は、神の子どもになったとしたら、耐えがたいものになるだろう」。それで彼らは、決してイエスのもとに行かない。なぜなら、人への恐れが罠にかけ、彼らを望みのない罪の奴隷のままにしておくからである。しかし、若者よ。あなたは誰か他の人を喜ばせたいだけのために、罪に定められようというのだろうか？　あなたは本気で、愚か者どもから笑われないようにするために、自分の不滅の魂を振り捨てようというのだろうか？　覚えておくがいい。彼らは笑いによってあなたを地獄に落とせるが、彼らがいくら笑ってもあなたを地獄から再び外に出すことはできないのである。もし、人々を喜ばせるためにあなたが、何か取るに足らない小さなことを喪失するとしたら、それは大した問題ではない。だが、それがキリストを失うこと、あなたの魂を失うこと、そして天国を失うことになるとしき、私はあなた自身の良心に訴えたい。果たして人々を――それが誰であろうと――喜ばせるために永遠に破滅して良いかどうか、答えるがいい、と。たとい父や、母や、兄弟や、姉妹や、あなたがこの世で有するいかなる友人があなたに逆らい立つとしても、神があなたのものであるとしたら、こうした人々の人々をあなたの友としながらも、《いと高き方》を敵に回したままであるよりも、ずっと良いではないだろうか？

　疑いもなく、こうした、人への恐れによって、すでに回心した多数の人々は、自分の信仰を公に認めることができずにいるし、罠にかかっているに違いない。ニコデモは、「最初は、夜イエスのところに来た」*［ヨハ19:39］。また、アリマタヤのヨセフは、「イエスの弟子ではあったがユダヤ人を恐れてそのことを隠していた」［ヨハ19:38］。私はあなたがこの二人の善人の背後に身を隠そうとしないことを望む。というのも、思い出すがいい。キリストが殺され、その御国が打ち立てられる見込みが最悪になったとき、彼らは大胆に姿を現わし、主に対する自分たちの愛を証明したからである。そして、彼らが蝸牛のように自分たちの巻貝の中に再び這い戻って行ったとは、どこにも書かれていないのである。キリストを自分の主であり《主人》であると認めてからの彼らは、結果がいかにあれ、主に従い続けたに違いない。あなたに関する限り、まさに今がキリストを告白すべき時である。特に今というのは、懐疑主義と迷信――真のキリスト教信仰を食い尽くそうとしている二頭の怪物――が荒れ狂っているからである。そして、主イエス・キリストの単純な福音の側に立つと宣言するには、ある程度の道徳的勇気が必要だからである。今こそキリスト者が自分の主であり《主人》であるキリストのために男らしく振る舞うべき時である。だのに、多くの人々は物陰に隠れている。「人を恐れると、わなにかかる」ことが彼らに起こっているからである。愛する方々。あなたはどこにいるのか？　私はこの会衆席すべてを回って歩くことはできない。さもなければ、私はそここで、私の《主人》を愛していると分かっている何人かの人々の前で、また、おそらくそうではないかと、喜びつつ推察している他の人々の前で、立ち止まるはずである。私は、あなたが主を愛していると思う。主の御名が賞揚されるのを聞くときのあなたの顔つきからそう思う。だが、あなたは、まだ主が望まれるようなしかたでそれを口にしたことがない。あなたが主に対していだいている愛にかけて、私はあなたに命ずる。引っ込んでいてはならない。今あなたが主を目の当たりにしていると考えてみるがいい。十字架につけられながら主があなたにこう云っているのを耳にしていると考えてみるがいい。「わたしがこうしたすべてを忍んでいるのはあなたのためなのだ。だのに、あなたはわたしを恥とするのか？　もしあなたが私を愛しているなら、この邪悪で曲がった今の世のただ中にあってわたしを告白するがいい。あなたの十字架を負って、わたしに従って来るがいい。それにいかなる苦しみや非難が伴おうと関係なく」。

　人を恐れることによって、この世に生を受けた最大の信仰者たちの何人かも罠にかかってきた。そして、神のいかなる子どもも、人の顔を恐れるときには常に、そうした関係に属する威光をある程度まで失うのである。アブラハムは何という大人物だったことか！　彼の生涯を読むとき、私は驚嘆とともに彼を見上げ、その点で彼に似た者となれるような信仰を持っていたらと願う。彼は歴史の頁の上を、きわめて荘厳な威光をもって堂々と歩いて行き、王侯や君主たちも、その偉大な姿のかたわらでは矮小化してしまう。いかに気高い様子で彼はソドムの王に云ったことであろう。「糸一本でも、くつひも一本でも、あなたの所有物から私は何一つ取らない。それは、あなたが、『アブラムを富ませたのは私だ。』と言わないためだ」［創14:23］。だが、おゝ、自分の妻についてアビメレクに、「あれは私の妹です」［創20:12］、と云ったときの彼は何と小さく見えたことか。ある意味で、彼女は彼の妹であった。彼の言葉に一片の真実はあった。だが彼女は彼の妹以上のものであり、彼は嘘をついていた。それゆえに彼は正当にも異教徒の君主から叱責されたのである。

　ダビデのうちには、もう1つの事例が見られる。いかにして人を恐れることによって、偉大な人々が引き倒されてきたかという実例である。ゴリヤテを殺しに出て行くときの彼は何と勇敢なことか。また、眠り込んでいた自分の敵の命を二度も助けたとき、いかに彼は堂々と振る舞っていることか！　だが、ガテにおける彼を見るがいい。アキシュの家来たちが彼を非常に恐れさせたため、彼は「彼らの前で気違いを装い、捕えられて狂ったふりをし、門のとびらに傷をつけたり、ひげによだれを流したりした」［Ｉサム21:13］。人を恐れることによって、このイスラエルの未来の君主は狂人のようによだれを垂らす体たらくにされてしまった。

　同じくらい悲しいのはエリヤの場合である。人々の中で最も壮大な人物と、まことに呼ばれてしかるべき人物である。彼の荘厳さをあなたが見てとるのは、彼がこう叫んでいるときである。「バアルの預言者たちを捕えよ。ひとりものがすな」［Ｉ列18:40］。また、彼が彼らをキション川に連れて下り、そこで彼らを殺すときである。また、カルメル山の頂上に上り、干上がった大地に雨が降るまで祈るときである。だが、精神の高揚が過ぎ去った後で、彼はひとりの女、イゼベルを恐れ、この偉大なエリヤは意気地なしの、怯えきった男に縮んでしまい、逃げ出しては、こう叫ぶのである。「主よ。……私のいのちを取ってください。私は先祖たちにまさっていませんから」［Ｉ列19:4］。それで、最上の人々でさえ、「人を恐れるとわなにかかる」ことが分かる。それは彼らを高い所から引きずり降ろし、ちりの中に投げ落としてしまう。それゆえ、願わくは神が私たちをそうならないようにしてくださるように。

　人を恐れるとき、ある信仰者たちは非常にいかがわしい立場にとどめ置かれてしまう。私の知っている一部の信仰者たちは、自分が正しいことを行なっていないと知っている場所、また、日々、彼らが重い鎖を引きずっている場所にとどまってきた。それは、神のために、すっぱり出て行く道徳的勇気がないからであった。若い方々。もしあなたがたの中の誰かが、天国への最も容易な道を行きたければ、――知っての通り、その道はみな険しいものだが、もし最も容易な道を行きたければ、――最も困難に見える道を取るがいい。すなわち、純粋に徹底的なキリスト者となるがいい。「ですが、それは私の払う代償が大きすぎます」、とある人は云うであろう。最初はそうであろう。だが、その後では次第にずっと容易になるであろう。一方、もしあなたがこの世に少しでも譲歩することから始めると、――いよいよ多くのものを譲歩し、削らなくてはならなくなる。キリスト者は汽船に似て、それが到達しようとする港へと真っ直ぐに行くべきである。だが、多くの信仰告白者たちは帆船のようであり、彼らを制御する原動力は彼らの外側にある。彼らは右へ左へ大いに折れ曲がらなくてはならない。そして、最終的には行く先に到達するかもしれなくとも、彼らの帆走は異様に蛇行するものとなり、その航海は非常に長くかかる。愛する方々。私があなたに望むのは、目当てめがけて真っ直ぐに進むことである。「神に信頼して正しいことを行なえ」*［詩37:3参照］。そうすれば、それは、結局のところ、あなたが辿ることのできる最もなだらかな通り道となるであろう。

　さらに、人を恐れることによって、非常に多くの人々が用いられるあり方から妨げられる。ある兄弟たちは説教しているべきときにそうしていない。なぜなら、人々を恐れているからである。また、ある人々は行って貧者を訪問すべきなのにそれはできませんと云う。その理由は、人々を恐れているからである。何と、私の知っているある人々は、小冊子を一部配ることすら恐れていた。彼らは、自分の手を虎口に入れなくてはならないかのように恐怖していた。私の知っているある人々は、自分の子どもたちに向かってその魂について語るのを恐れていた。これは奇妙なことではないだろうか？　彼らは、他の人々の子どもたちに向かってその魂について語る方が、自分の子どもたちに向かってそうするよりも得意なのである。そうあるべきではない。事実、生きている者のうち、私たちの中の誰かが――もしキリスト者であるとしたら――恐れるべき権利のある者はいない。人々に対して善を行ないたければ、決してその人々を恐れていてはならない。もしもあの使徒たちが、私たちの知っているある人々のように臆病者で、優しいキリスト者たちだったとしたら、神の《教会》はどうなっていただろうか？　彼らは、町通りに出て行って説教しようとはせず、当時は何の会堂も教会もなかった以上、全く説教しようとはしなかったであろう。カイザルが週の初めの日に集会してはならないという勅令を公布するや否や、彼らはこう云ったであろう。「私たちは集会を開くべきではないかもしれない」。群衆が円形演技場で、「キリスト者たちを獅子へ！」、と叫ぶのを聞いたとき、彼らはこう云ったであろう。「私たちは、あのような危険に身をさらしてはならない。それに、妻や家族のことも考えなくてはならない」。それで彼らは臆病者となり、すぐに世界には何のキリスト教も残らなかったであろう。想像してみるがいい。もし宗教改革者たちがそのようなしかたで行動していたとしたら、どうなっていたことか。かりに、マルチン・ルターはこう云っていたとしたらどうであろう。「私は、先日相談した老修道僧が与えた助言通りにしよう。彼はこう云ったのだ。『マルチン。お前の独房に戻りなさい。そして、そこでお前の神の近くで生きなさい。そして、《教会》をも世界をもそっとしておきなさい』」。もしマルチン・ルターがその助言に従っていたとしたら、あのほむべき宗教改革はどうなっていただろうか？　また、いま現在の瞬間、福音の説教はどのようなものになっていただろうか？

　本日の主題のこの部分について、これ以上長く話を続けるわけにはいかないが、もう1つだけ云わなくてはならないのは、キリストに仕える教役者にとって、人を恐れることは、最悪の罠の1つであるということである。ヨナがニネベに行くのを逃れようとしたのは、人を恐れたからであった。ガラテヤ人たちは福音の完全な光に耐えられず、それゆえ、彼らの中の何人かの教師たちは、その光箭の幾筋かを閉め出そうと試みた。そして、もしもキリストに仕える教役者がひとたび自分の話を聞く者たちを恐れ出すや否や、彼は、富裕な寄付者を怒らせることを恐れて何らかの教理を差し止めがちになるか、会衆の中の有力者への痛棒になりすぎることを恐れて、何らかの叱責を抑えておきがちになるであろう。私は、ある罪だけは一度も犯したことがないと信ずる。私は、あなたがたの中の誰をも決して恐れたことがないと思うし、神の恵みによって、これからも決して恐れないことを希望している。もし私が、あらゆる点について真理をあえて語らず、罪をあえて叱責しないとしたら、私があなたにとって何の役に立つだろうか？　だが、私が聞いたことのあるいくつかの説教は、会衆の指図に従って作られたもののように思われることがあった。しかし、正直な聞き手は正直な説教を欲するものである。また、説教者の指針が自分たちの心に突き入るのを感じるときには、そのことで神に感謝するものである。彼らは云う。「これは正しいことではないだろうか？　もし私たちが過ちを犯すなら、生きていて力ある神のことば［ヘブ4:12］は私たちを探り、試み、私たちの過誤を見つけ出すべきではないだろうか？」　それで説教者は、もしイエスにある真理［エペ4:21］を本当に説教するなら、しばしば、励ましだけでなく叱責をも与えなくてはならない。願わくは神が、ご自分に仕えるすべての教役者たちを、いかなる所においても、人への恐れから解放し、キリストの《教会》全体をもそうしてくださるように！　時として、人への恐れはこのような形を取ることがあった。――当時は、地質学者たちがこう発見したと云われていた。モーセは間違っており、神はいかにして世を造ったかご存知なかったのだと！　多くの人々は、見るからに何かすさまじいことが起こったかのように考えた。そして、いかにしてこうした反対者たちに回答すれば良いのかと右往左往した。それからしばらくすると、誰かがこう発見した。神がアダムとエバを造ったというのは間違いだったのである。なぜなら、アダムとエバは、牡蛎だの、もっと小さな何らかの生き物だのから次第に発達してきたからである！　すると、再び人々は叫びわめいた。「この卓越した哲学者たちに、誰が答えられようか？」　おゝ、神の《教会》よ。たわごとを云う馬鹿どもに、いちいち答えを返すべきだろうか？　霊感されたみことばに堅く立つがいい。そして、人への恐れによって罠にかからないようにするがいい。私たちは、何十もの哲学体系がやって来ては去るのを見てきた。そして、死ぬまでに、おそらくそれと同じくらい多くのものを見るであろう。私たちの務めは、啓示された真理に堅く立つことだけであり、種々の哲学は、モーセ時代のエジプトの蛙が死んだように死なせるがいい。というのも、それらは死ぬであろうし、新たな大群がやって来るときには、それらもまた死ぬであろうが、永遠にほむべき神の永遠の真理は決して死ぬことがなく、自らの栄光に富む不死性によって生きるからである。

　II.　さて、第二のこととして、私があなたに示したいのは、《この悪に対する大きな治療法は、神への信頼である》ということである。「人を恐れるとわなにかかる。しかし主に信頼する者は守られる」。

　私は、ソロモンがこう云おうとしたと考えても良かったはずである。「人を恐れるとわなにかかる。しかし主を恐れる者は守られる」、と。そのように記されていても、ほとんど違和感はなく、それはきわめて真実であったろう。だが、それでは、ソロモンがそのとき念頭に置いていた特別な真理を表わさなかったであろう。恐れではなく、信仰こそ、臆病に対する治療法なのである。主に信頼すれば、あなたは、「だれを私は恐れよう」［詩27:1］、と叫べる。というのも、あなたは自分が《全能者》の強さを後ろ盾にしていると感じるからである。その強さは勇気を生み出し、私たちを大胆にし、こう問わせることができる。「神が私たちの味方であるなら、だれが私たちに敵対できるでしょう」［ロマ8:31］。その勇気によって私たちは、正しいことを行なう代価を数えるよう仕向けられ、それを数えた後でこう感じるのである。神の強さによって、私たちはそれを耐えることができるし、必要とあらばその千倍も耐えることができる、と。それゆえ、私たちは云うのである。「何が来ようと、私たちは主に仕える」、と。そして、聖霊が私たちの上に宿っておられるゆえに、大胆に神の御力によって勝利へと行進するのである。それで神への信頼には、神の強さが与えられ、その結果として、勇気と決断が生まれる。このようにして私たちは、人への恐れを越えて高く上げられるのである。

　しかし、この聖句の肝腎な点は、別の方向に見いだされる。すなわち、神を信頼するとき、私たちは、単に恐れからばかりでなく、恐れに屈さないことから生ずる種々の結果からも守られるのである。「主に信頼する者は守られる」。主に信頼し、正しいことを行なうことによって、その人は大きな苦しみを受けるかもしれないが、守られるであろう。その人は、それとは逆の方針に従った場合ほど大きく苦しみはしないであろう。かりに、その人の敵たちがその敵対をきわみまで押し進めようとも、せいぜい肉体を殺すことしかできず、それ以後、彼らにできることは何もない。しかし、かりにその人が自分の信仰を放棄したとしたら、その人のからだと魂は地獄に投げ込まれるであろう。それは、無限に大きな、永遠の損失となるであろう。神に信頼することによって負け犬になることがありえるなどと決して想像してはならない。そうすることにいかなる危険があろうと、神に信頼せずにいる危険ははるかに大きい。そして、分別のある人ならみな、より小さい危険を選ぶであろう。それに、これはごく頻繁に起こってきたことだが、もしある人が神に信頼し、自分の良心に従って行動するなら、その人は結局において負け犬にはならないのである。このことを誘因としてはならないが、多くの人々は神への信頼によって得をしてきたのである。多くの人々は云った。「もし私たちが、自分の正しいと感じることを行なうなら、すべてを失うであろう」。だがしかし、彼らは、あえてその危険を冒したとき、全く何も失わなかった。というのも、緊急時には神が彼らをお助けになったからである。しかし、たとい正しいことを行なうことによって損をするとしても、こう確信することで慰めを受けるがいい。「主に信頼する者は守られる」。守られる方が、富裕になるよりもはるかにまさっており、現世においても永遠においても守られる方が、この世の一切の慰安に取り巻かれていながら、自分の魂を危険にさらすよりも無限にまさっている。

　キリスト者である人は決して誰をも恐れる必要はない。もしあなたが正しいことを行なっているならは、悪魔に仕えているいかなる大人物をも恐れる理由は全くない。ベルナール・パリシーを見るがいい。このユグノー派の陶工は、非常に優美な芸術品を造るのを事としていた。ある日、フランス国王が彼に云った。「ベルナール。わしが恐れるに、わしはそなたを異端審問所に送って火刑に処するしか、どうにもできないわい。その方が宗旨を変えなければな」。ベルナールはこう答えた。「陛下は哀れなお方ですな」。考えてもみるがいい。一介の陶工が一国の王を憐れんでいるのである！　それで国王は尋ねた。「なぜわしを哀れというのじゃ？　ベルナール」。「それは」、と彼は答えた。「陛下が仰せになったようなことは、陛下や五万人の王侯が総掛かりになっても私に云わせることができないからです。私が恐れるに、どうにもできない、とね！」　何と、方々。パリシーこそは王であった。王は陶工ほどの値打ちもなかった。真に王としてふさわしい威厳は、その陶工の魂に宿っていた。あなたがた、若い人たちの中の誰かは、誰か他の人にこう云わされるままになるだろうか？　「私が恐れるに、私は非国教徒たちとともに礼拝するのをやめるしか、どうにもできない」。「私が恐れるに、私はあの小さな田舎のバプテスト派の会堂に出席するのをやめるしか、どうにもできない」。あるいは、「私が暮らしている街では、キリスト教を公に告白することは私にふさわしくないのではないかと心配だ」、と。もしあなたがそのような口を利くとしたら、私にはただ次のようにしか云えない。「願わくは主が、あなたのちっぽけな魂を憐れんでくださり、あなたのためキリスト何を行なってくださったかを告白するだけの男らしさと普通の正直さを与えてくださるように！」　もしあなたが本当にイエス・キリストの尊い血によって買い取られているとしたら、また、自分のもろもろの罪を赦され、天の相続人とされており、栄光に富む不滅への途上にあるとしたら、確かにあなたは、そうしたこそこそ小僧の役を演じることはできないに違いない！　あなたは何者なのか？　御使いたちの間に住むことになっており、天空に専用の邸宅と、義の衣と、栄光の冠を有しているあなたが、そのような臆病者の真似をしようというのだろうか？　何と、もしあなたがそのようにふるまうとしたら、あなたは戦闘の《教会》の連隊から追い払われるべきである。いかにしてあなたは、そのようなみじめな精神をかかえたまま、勝利の《教会》の中に入れると期待できるだろうか？　願わくは主があなたを助けて、あなたをご自分に信頼させ、あなたがあらゆる人への恐れから救われるようにしてくださるように！

　さて、しめくくりである。この聖句の後半の一文は、独立した命題としても真実である。「主に信頼する者は守られる」。この文章について語る時間はないが、このことを、あなたが帰宅中に舌鼓を打つべき甘やかなパンの一口として与えたいと思う。これは、「自分に信頼する者」でも、「司祭に信頼する者」でも、「良いわざを行ない、それに信頼する者」でもなく、「主に信頼する者は守られる」、である。イエスの血と義に信頼している者は、常に幸福ではないかもしれないが、守られる。常に歌ってはいないかもしれないが、守られる。常に完全な確信を喜んではいないかもしれないが、守られる。時として苦悩することはあるかもしれないが、常に守られる。時として自分がキリストの恩恵にあずかっているかどうか疑うことはあるが、常に守られる。

　先日、私はベルラルミーノ枢機卿［1542-1621］の用いた云い回しに接して吃驚させられた。彼はイエズス会最大の論争家であったが、行ないによって救われることに関する1つの長い論議を、次のような、非常に尋常ならざる文章によってしめくくっているのである。それを、できる限り正確に引用することにしよう。「それにもかかわらず、確かに神に受け入れられる道は、私たち自身の種々の行ないによるものであるが、1つの危険がある。人々が自分自身の行ないに頼りすぎるあまり高慢になることである。それは、彼らの行ないを全く台無しにしてしまうであろう。それゆえ、総合的に考えると、彼らにとって最も安全なのは、イエス・キリストの血と功績だけにより頼むことである」。よくぞ云った、ベルラルミーノ枢機卿！　「総合的に考えると」。私は、生きてある限りそうするつもりである。そして、おゝ、これまでローマ《教会》の種々の教理によって欺かれてきた誰もが、この枢機卿のこの告白に耳を傾ければどんなに良いことか。総合的に考えると、キリストが行なわれたことにより頼むのが最も安全なのである！　総合的に考えると、《救い主》に信頼する方が私たち自身に信頼するよりも良いのである！　総合的に考えると、主の血で洗われる方が、私たちが自分で自分をきよめることができると考えるよりも良いのである！　この枢機卿はすべての真理を語りはしなかったが、彼が現に云ったことには感謝するものである。だが、その真理をずっとうまく云い表わしているのが、本日の聖句におけるソロモンの言葉である。「主に信頼する者は守られる」。その人は守られる。病気であろうと、金持ちであろうと、貧しかろうと守られる。死ぬときも守られ、よみがえるときも守られ、審きの日にも守られ、永遠を通じて守られる。おゝ、ならば、あなたがたはみな来て主に信頼するがいい。「主に信頼する者は守られる」からである。永遠に！　アーメン。

　

2つの古代の箴言［了］

ｽ

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