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くすぶる燈心

NO. 1831

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説教者：C・H・スポルジョン
於ニューイントン、メトロポリタン・タバナクル
1884年6月1日の説教

「くすぶる燈心を消すこともなく」。――イザ42:3

　私の信ずるところ、この言葉の第一義的な意味は、普通これに対して与えられるものでも、私が今晩説教しようとしているところのものでもない。マタイ12章で私たちの天来の主は、律法学者やパリサイ人たちから激しく論難されたと記されている。だが主はそのときには彼らとの論争に入ることも、彼らを立て続けにご自分のことばの標的とすることもなさらなかった。彼らがいかなる偽善者であったか、また、いかに限りない害悪を働きつつあったかを考えると、実際、主は彼らを非常に優しく扱われた。彼らは、主にくらべれば、いたんだ葦のようなもの、また、くすぶる燈心のようなものであり、主がお望みになれば、彼らを全く折ることも、全く消すこともおできになった。だが主がやって来られたのは、ただの論客になるためではなかった。主はまことに、改革者という改革者の中でも最大のお方であられたが、破壊者というよりも建設者であられた。主が来られたのは、理性によって誤りを追い払うためというよりも、真理を誤りの代わりに置くという自然で効果的な過程によって誤りを追い払うためであった。それで、大方の場合、主はこうした律法学者やパリサイ人たち、そして、他の反対者たちを放っておき、むしろ、病人を癒し、罪深い者らを救うというご自分の働きを穏やかに続けられた。――私たちにとって非常に大切な教訓である。私たちは時として喧嘩腰になっては、宗教論争を求めることがある。だが私たちの《救い主》は争わず、叫ばず、声をあげず、ちまたにその声を聞かせない。いたんだ葦を折ることもなく、くすぶる燈心を消すこともない［イザ42:2-3］。くすぶる燈心のほのめく光を消す最上の方法は、太陽を輝かすことであった。そのときには、誰にもそれが見られなくなった。こうしたいたんだ葦を大声で圧倒する代わりに、主は確実で堅固な真理という、より高い主張を打ち立てられた。というのも人々は、いったん格段に安定した、また格段に頼もしいものを見てとったときには、いたんだ葦などより頼みたいとは思わなくなったからである。あなたや私は、真理を宣べ伝えることによって、最も良く誤りを鎮圧するであろう。もし私たちがキリストを宣べ伝えるなら、悪魔は落下する。もし曲がった杖があなたの前にあるなら、それがいかに曲がっているかをくどくど説明する必要はない。真っ直ぐな杖をその隣に置くだけで良い。真理を宣べ伝えるがいい。そうすれば、誤りはその前で恥じ入って立つことであろう。

　疑いもなく、これが、マタイの前後関係によって見てとれるはずの、この箇所の一義的な意味である。こう云われている。「彼はいたんだ葦を折ることもなく、くすぶる燈心を消すこともない、公義を勝利に導くまでは」［マタ12:20］。主が公義を勝利に導かれるとき、それは、偽善者、パリサイ人、形式主義者、律法主義者、その他のあらゆる反対者といったいたんだ葦とくすぶる燈心にとどめを刺すであろう。
ふ
　通常、こうした言葉が意味すると理解されているのは、イエス・キリストが臆病な信仰者たちを非常に優しく扱われるということであり、この意味も排除されるべきではない。というのも、まず第一のこととして、それは真実だからであり、第二のこととして、それはこの聖句から出た真実でもあるからである。というのも、もし私たちの主がその在世中に偽善者たちに対してすら優しくあったとしたら、いかにいやまして主は、真摯だが小心な霊たちに対して優しくあられることであろう。もし主がパリサイ人のくすぶる燈心すら消そうとしないことが真実だとしたら、いかにいやまして一個の悔悟者のくすぶる燈心が消されないことは真実であることか！　それで、たといこの聖句が、それによって一般に理解されているところの意味を表わしてはいないとしても、これはそれを含んでおり、この言葉は実に明らかに、普通それらに与えられている意味に至るのである。

　私が思うに、教会の中には一種の本能があって、本文批評の判断からすれば、ある聖書箇所を誤って適用しているかに思えるときでさえ、普通はそれを誤って適用しているのではなく、単に第一の光のかげにあった第二の光を引き出しているにすぎない。その輝きに決して劣りはないが、第一の光があるため、なおさら明るく輝くのである。それゆえ、私はこの聖句を取り上げて、ここまで述べてきたこととは別のことを意味させようと思う。「くすぶる燈心を消すこともなく」は、あなたがた、小心で、意気阻喪し、気弱だが、しかし誠実な信仰者たちのための聖句である。そして、あなたはこれを自分自身のものとすることができる。願わくは聖霊があなたを助けてそうさせてくださるように！

　I.　今回この聖句について語るに当たり、私が第一に問いたいのは、《この比喩がいかなる状態を表わしているか》ということである。

　くすぶる燈心が表わしているのは、少しは良いものがある状態である。欄外には、「薄暗く燃える燈心」と注記されている。その核心には善の火花がある。私の愛する方々。あなたは小さな信仰を有している。それは、からし種よりさほど大きくない。だが、そうした大きさの信仰の中にも大きな力がある。私はあなたの信仰が育って木のようになってほしいと願うが、たといからし種ほど小さなものではあっても、あなたが信仰を有していることを非常に嬉しく思う。また、あなたにはより良い物事に対する願望もある。あなたは常により聖くなりたいと欲している。神の民の間にいることを愛している。そして、時として自分が彼らのひとりではないのではないかと不安になりはしても、その点について確信するためなら持てるものすべてを与えても惜しくないと思っている。彼らの生き方を愛しているからである。こうした願望を有しているあなたは、実際に祈っている。「おゝ、先生」、とあなたは云うであろう。「あんなもの祈りと呼ばれる値打ちはありません！」　よろしい。ならば、祈りとは呼ぶまい。だが、それは祈りである。というのも、時として、たとい一言すら語られなくとも、その心の願望は最も神に受け入れられる懇願なのである。「おゝ、先生」、とあなたは云うであろう。「ですが、私は常に同じように願うわけではないのです！」　それは私も非常に残念に思う。私はあなたが常にキリストを求める強い願いを持っていてほしいと思う。それでも、あなたは現に願っている。そこには切望があり、願望があり、慕いあえぎがあり、飢え渇きがある。それゆえ、あなたの中には、少しは良いものがある。「私をほめないでください」、とあなたは云うであろう。おゝ、否。愛する方よ。私はあなたをほめようとは思わない！　私はあなたがそれを好まないだろうと分かっている。というのも、あなたは自分を慎み深く評価しており、あの、「神さま。こんな罪人の私をあわれんでください」［ルカ18:13］、と叫んだ取税人のようだからである。この口ぶりはあなたにふさわしいものではないだろうか。あなたが自分のことを良く思っていない以上、私はあなたのうちに良いものを見てとれる。もしあなたが自分を良く思っているとしたら、私はあなたを悪く思うであろう。だが、あなたが自分の悔い改めについてすら悔い改め、自分の涙について嘆くべき必要があると感じている限り、私はそれを嬉しく思う。心のへりくだりは、近頃非常に蔑まれている恵みだが、天の《王》からは非常に尊ばれるものである。「わたしが目を留める者は」、と《王》は云われる。「へりくだって心砕かれ、わたしのことばにおののく者だ」［イザ66:2］。あなたの中には、少しは良いものが神の御霊によって入れられている。「あゝ」、とあなたは云うであろう。「私はその言葉を嬉しく思います。私は、生まれつきの私の中に何も良いものがないと確信しているのですから」。愛する方よ。私もそのことを確信している。あなたが少しでも私に似ているとしたらだが。神の恵みが私たちに、私たちの最初の願望を入れた。私たちの最初の罪への嫌悪、赦されたいという私たちの最初の願いを入れた。御父に立ち返りたいという、私たちの最初の願望を入れた。その御父から、私たちはさまよい出していたのである。御霊がそれをそこに入れてくださった。そしてあなたはくすぶる燈心のようになっている。あなたの中に小さな生きた火があるからである。

　また、あなたがくすぶる燈心のようであるのは、あなたの良いものが小さすぎて、誰のためにも大して役に立たないからである。もし今晩ここにくすぶる燈心があったとしても、瓦斯灯の方がすべて消えてしまったとしたら、それで何ができるだろうか？　ことによると、あなたは、1つの明滅する微光を見るかもしれないが、こう云うであろう。「それは明かりではない。むしろ目に見える闇だ」、と。私は、闇の中にいる魂が、その、目に見える闇を見いだすことを嬉しく思う。それには良い点が1つある。悲しいかな、あなたは、あわれな臆病すぎる者である。あなたは神の子どもをひとりも慰めることができない。自分自身すら慰められない！　あなたは弱い者を力づけることができない。あなたは、あなた自身があらゆる力づけを欲しているからである。あなたは、大した兵士ではない。隊伍を組んで行軍できない。私たちはあなたを傷病者運搬車に載せて連れ歩かなくてはならない。よろしい。私たちは、または、神は、あなたをかかえていくことに飽き飽きしたわけではない。あなたはそれでも兵士である。というのも、あなたはできるものなら戦おうとするからである。傷病兵ではあっても、喇叭が響くたびにあなたは、戦いのたけなわにいたいと願う。可哀想に！　あなたはたちまち踏み倒されてしまうであろう。だが、あなたにはそうした精神があり、そのために私は神に感謝する。あなたの勇気は誰にとっても大して役に立たないが、それでもあなたにとっては役に立つ。というのも、それはあなたが十字架の兵士、《小羊》に従う者であることを証明するからである。願わくはあなたがより多くの光を得られるように。それはあなたが、荒涼とした道にある自分の兄弟を照らせるようになるためである。私が願うのは、あなたがより多くの喜び、より多くの希望、より多くの安息を得ることである。というのも、そのときにはあなたは主の家族にとって有用な者となり、《王》はあなたのうちに意欲的な助け手を見いだすことになるからである。しかし、あなたにそうできない以上、あなたはくすぶる燈心のようである。そこには少しは良いものがあるが、その良いものは、あなたを非常に役に立つ者とするに足るほど大きくはない。それでも私はあなたに、あなたのできる1つのことを告げよう。あなたは、自分と同じような別のあわれな魂に出会うときには、同情できるではないだろうか。見ての通り、明るく輝く光たちが薄暗い者たちに近づくとき、それは彼らを慰めるよりも恥ずかしく思わせがちである。だが、あなたはそうさせないであろう。その分だけ、あなたは意気阻喪した者を助けることすらできる。少なくとも、いずれそのうちそうできるであろう。

　ならば、くすぶる燈心には小さな火がある。だが、それはあまりにも小さなものであるため、ほとんど役に立たず、しかも、より悪いことに、あまりに小さすぎて、不快なほどである。消えかかった蝋燭の臭いが大好きだという人はいない。くすぶる燈心は甘やかな香りを生じさせない。嘆かわしい状態にあるときのキリスト者もそうである。その人の中には小さな良いものがあるが、その人の回りには大量の悪いものがあり、その悪いものが悪い香りを放つ。時として、こうしたくすぶる燈心である人々は、非常に多くの誤りを信じている。彼らは、神の永遠の愛という真実で堅固な教理を奉じていない。それに加えて、彼らには種々の疑いという大きな煙がある。彼らはこのことを疑い、あのことに疑念をいだき、別のことを怪しく思うｧ。私たちの天来の主にとって、ご自分に対する不信ほど気に障るものはない。主がそれを忍んでくださるのは、主の側における恵み深い行為である。ある人はキリストに、「もし、おできになるものなら」［マコ9:22］、と云った。それは全能の主に対する言葉としては、ひどく無礼なことであった。別の者は主に、「お心一つで」［マタ8:2］、と云った。そして、それは、これほど親切なお方に対する言葉としては恥ずべきことであった。だがしかし、主はそのどちらとも忍ばれた。疑っている心はこう叫ぶであろう。「もしお心なら、もしおできになるものなら」、と。そして、何をしても、信ずることだけはしようとしないであろう。これは、主イエス・キリストの前で不快な香りを放つことである。というのも、私たちは自分の疑いを取るに足らないこととみなすかもしれないが、それらは主にとっては取るに足らないことではなく、主の御心にとっては、この上もなく極悪で、腹の立つことだからである。ひとりの愛する姉妹が、今朝の礼拝の後でやって来て、私にこう云った。自分はあなたと同じ生年月日で今度五十歳になりますから、あなたと握手しにやって来たのです、と。そして彼女はこう云い足した。「私はその点では先生と似ていますが、他の点では全くの正反対ですの」。私は答えた。「では、あなたは善良なご婦人に違いありませんな」。「いいえ」、と彼女は云った。「私はそういうつもりはありませんわ」。「しかし、あなたは信仰者ではありませんか？」　「あゝ」、と彼女は云った。「私――私はそうなろうと努めますわ」。私は彼女の手を取って云った。「どうぞ仰らないでください。私たちの主イエス・キリストを信じてみようと努めるだなどと。それは、真理でしかない主に対する不信ということになるのですからね」。そして、彼女の手を強く握りしめて云い足した。「お母上がそばにおられた頃、あなたはこう云われましたか？　『ねえ、私はお母さんを信じてみようと努めるわ』、と。いいえ、あなたは母上が真実であられるので、母上を信じていたでしょう。そのように、ぜひともイエス・キリストを信じなくてはならないのですよ」。彼女は云った。「先生。私のために祈ってくださいますか？」　「いいえ」、と私は云った。「そうしたい気持ちにはなりません。あなたのため何について祈るべきでしょうか？　もしあなたが私の主を信じようとしないのなら、主はいかなる祝福をあなたに与えることがおできになるでしょうか？　主が何をしたからというので、あなたは、『私にはこの方が信じられません』、と仰るのですか？」　彼女は再び答えた。「やってみますわ」。私は、このことばを彼女に思い出させるまで満足しなかった。「御子を信じる者は永遠のいのちを持つ」［ヨハ3:36］。そして、よみがえられた主を信ずる完全な信仰を持つよう強く彼女に勧めた。聖霊は彼女が信頼できるようにしてくださり、彼女はこう叫んだ。「私は自分の感情を見つめていました。先生。それが私の間違いだったのです」。疑いもなく、彼女はそうしていた。そして他の非常に多くの人々も同じことをしている。そして、彼らの疑いはまさにあの、くすぶる燈心から生ずる、ぞっとするような煙なのである。おゝ、あなたがた、あわれな疑う人たち。主イエス・キリストを信じるがいい！　「私には信じられません」、と云うことは、言葉を換えると、主を嘘つきだと云うことである。そして、あなたがそう云うことを私たちは許せない。

　愛する方々。もしあなたがくすぶる燈心のようであるなら、あなたの中には良いものがあるが、それは、悲しいほど小さすぎるため、非常に多くのものがあなたの試みとなっている。だが主はあなたをお消しにはならないであろう。あなたは、ありとあらゆる種類の恐れに満ちている。影にも怯え、何もないところでおののく。なぜそうなのか？　あなたは喜んでしかるべきときに悩み、自分の家族全員に悲しい思いをさせる。あなたが悩む地上的な理由は何もないのだから。主があなたを助け出してくださるように！　信仰において最も高い人々があなたを慰めようとしてきたが、あなたは、彼らによって引き上げられる代わりに、彼らを引き下ろしてきた。さあ、愛する方々。私は、自分にできる限り優しくなることにしよう。本日の聖句がそうするよう私に命じている。私は、あなたのくすぶる燈心のための何の消灯器も持っていない。私たちの主がこう云われたからである。「くすぶる燈心を消すこともなく」、と。

　私はこの状態についてもう1つつけ足さなくてはならない。それはこうである。その良いものは小さすぎて、他の人々にとってごく僅かな役にも立たず、時には非常に不快なものであるが、だが、あなたの中には、サタンが十分に危険とみなすだけの良いものがある。彼は、あなたに少しでも火が残っているのを見るのを好まない。それが炎になりかねないのを恐れるからである。もしも、ひとりの男が私たちの公共の建物の1つの裏に立って自分の洋煙管をふかしているのを見るとしたら、あなたがたは誰しも、半ば爆発を恐れるはずであろう。男が爆薬に火を点けているかもしれないからである。時には、最も小さな煙でも、最も勇敢な人々を恐れで満たすことがある。まさに、そのように、

　　　「サタンは怯えん、いかに小さき
　　　　聖徒（たみ）の祈るを　見ゆときも」。

もしあなたが自分の罪について呻いているのを聞くなら、彼はそれを怖がる。「おゝ」、と彼は云うであろう。「奴らは感じ始めている。嘆き始めている。願い始めている。祈り始めている。ならば、じきに俺様から離れて行くだろう」。自分の乾草積みの1つから小さな煙が立ち上っているのに気づいた農夫は、疑いもなく、くすぶる燈心など何ほどのものでもない、などとは云わないに違いない。むしろ、あわてて大火事を防ごうとするであろう。そのように、愛する方々。あなたにある小さな恵みをキリストはご覧になり、それを是としてくださる。というのも、主はその幾多の可能性をご存知だからである。――小さな信仰がいかに強い信仰へと育つか――からし種がいかに一本の木となり、空の鳥がその枝に巣を作るほどになるか［マタ13:32］を。そしてサタンも、そこから何が生じかねないかを知っているので、できるものなら、それを消そうという気になる。それゆえ、私たちはあなたを励まして、あたなの火花を炎へと煽り立てたいと思う。

　それが第一の問いに対する答えである。では、それはいかなる状態を表わしているだろうか？

　II.　第二に、魂はいつそうした状態になるだろうか？

　ある人々がそうした状態になるのは、彼らが新しく信じたばかりのときである。――この燈心に火が点けられたばかりのときである。今晩、この教会に受け入れられることになる人々を、私は心の底から喜び迎えるものである。だが、彼らはごく最近点火されたばかりであり、一部の人々は、ことによると、こう云ったであろう。「もう少し彼らには待たせるがいい」。左様。だが、そのときも、私たちの主は、くすぶる燈心が点火されたばかりだからといってそれをお消しにはならないし、私もそうはしないであろう。世界中のどこにもまして子羊にとって良い場所は、羊の囲いである。どこにもまして赤子にとって良い場所は、自分自身の家である。どこよりも若いキリスト者たちにとって良い場所は、神の教会である。それで、彼らを来させるがいい。

　回心したばかりの彼らは、多くのことを奇妙に感じている。あなたはおびただしい数の発見をしてきた。あなたは、自分の心の中に、そこにあると考えていた以上の堕落を見いだす。あなたは友と出会うことを予期していた所に敵を見いだす。こうしたすべては、あなたの勇気をくじいてしまう。だが、意気消沈してはならない。――あなたが点火されてから間もないとはいえ、だが愛に満ちたイエスはくすぶる燈心をお消しにはならない。

　時に、蝋燭がくすぶるのは、点けられたばかりだからではなく、ほとんど消えかかっているからである。私は、自分がある種のキリスト者たちに向かって語りかけていることを知っている。そうした人々は、何年も前から恵みの火によって燃やされていながら、まるで消化される暗黒の時に近づいているかのように感じている。しかし、あなたが消えることはない。主はご自分ではあなたをお消しにならないし、悪魔があなたを消すことをお許しにもならない。恵みによってあなたを燃やし続けてくださる。「おゝ」、とあなたは云うだろうか？　「私は霊がひどくふさいでいるのです」。しかり。神の最上のしもべたちの中の幾人かは、悲嘆に暮れる霊の持ち主であった。ハンナを思い出すがいい。あの時、エリは冷酷に叱責したが［Ｉサム1:14］、それにもかかわらず、彼女は祝福を得た。ダビデはこう云わざるをえなかった。「わがたましいよ。なぜ、おまえは絶望しているのか。なぜ、御前で思い乱れているのか」［詩42:11; 43:5］。だがしかし、彼は神の心にかなう人であった［Ｉサム13:14; 使13:22］。ことによると、あなたの具合は良くないかもしれない。あるいは、神経系にひどくこたえるような病気を得ていて、抑鬱しているかもしれない。それゆえ、あなたは恵みが自分を離れつつあると考えているが、そうはならない。あなたの霊的生活は天性にかかってはいない。さもなければ、それは息を引き取るであろう。それは恵みにかかっており、恵みはあなたを照らして栄光の中へと案内するまで、決して輝くことをやめない。それゆえ、意気消沈してはならない。あなたは自分の光が永遠の暗闇の中で消えるのだと思っているであろうが、決してそうはならない。主イエス・キリストがその炎を保たれるからである。

　時として、その芯がくすぶるのは、世俗性がそれを湿らせてしまったからである。あなたがたの中に、聖い喜びを全く有していない人が誰かいるとしても私は驚かない。というのも、あなたはこの世のことで心が一杯になりすぎ、この世を好みすぎているからである。神のいのちはあなたの中にあるが、それは窒息させられている。あなたは、さながら人々が秋の庭園で雑草を焼いているときの焚き火のようである。そこには火があるが、目には煙しか見えない。しかり。あなたは、自分の敬神の念をこの世の事がらでもみ消しつつあり、それがくすぶるとしても不思議はない。だが、何というあわれみであろう。主は、あなたさえも滅びることをお許しにならない！　主は消えかかる炎が隠れはしても、消えないようにしてくださる。

　時々、芯が下火になるのは、非常に強い風が吹きつけたからである。多くの人々は、非常に猛烈な誘惑の的となってきた。彼らが暮らしている場所は彼らにとって試みであり、彼らの生来の体質は彼らに多数の誘惑を供する。それで燈心はほとんど燃えることがなく、くすぶり、いぶるだけなのである。そうなったとしても不思議はない。

　他の多くの理由も加わって、私たちは薄暗くなることがある。――それは理由ではあるものの、その1つたりとも十分な弁解にはならない。もし私たちがしかるべき者になっているとしたら、私たちは常に燃えて輝くともしび［ヨハ5:35］となり、くすぶる燈心のようには全くならないはずである。だが、私たちがしかるべき者でないとき、私たちは真の基準に足りず、虚弱な信仰者になる。

　III.　私は1つの約束の言葉をもってしめくくりたいと思う。《イエスはこうした状態にある人々をどうなさるだろうか？》　主はくすぶる燈心をお消しにならないと仰せになる。いかなるあわれみの世界がこのことばに横たわっていることか！　他の誰が私たちを消そうと思おうと、キリストは違う。疑いもなく、何人かのキリスト者たちは、どれほど愛に満ちたキリスト者の友人たちからも我慢することが難しいと思われ、残念だが、そのような精神状態が恵みと両立しうるとは到底思えないと思われる状態に陥ることがある。こうして、友人たちはあなたを、失われたものとしてあきらめるであろう。しかしイエス・キリストは、ご自分はそうしないと云っておられる。

　主は、まず最初に、律法的な審きをあなたに宣告することによっては、あなたをお消しにならないであろう。主は、こうは仰せにならない。「お前はわたしの律法を破った。ならば、お前とはもう手を切る」。もし主がそうされたとしたら、私たちの唯一の答えはこうでしかないであろう。「あなたのしもべをさばきにかけないでください。生ける者はだれひとり、あなたの前に義と認められないからです」［詩143:2］。もし主がいったんその点に至ったならば、主は私たち全員を消してしまわれるであろう。震えおののいている少数の誰彼だけでなく、私たちの中の最も強い者たちも窮地に陥るであろう。主イエス・キリストが来られたのは罪に定めるためではなく、救うためである。

　愛する方々。主は、経験について高い基準を設けることによって、あなたをお消しになることもないであろう。ある深い神学者たちはこう云うであろう。「あなたは、このことをこれこれくらい感じ、別のことをこれこれくらい感じなくてはならない。さもなければ、神の子どもではありえない」。だが誰がこの善良な人にそう告げたのだろうか？　誰がこの人を裁判官にしたのだろうか？　主イエス・キリストは、ご自分のしもべたちのか弱く、微かな願望や、震えおののく信仰をもお消しにならない。たとい彼らが、神の子どもに属しているべき経験に、はるかに遠く及んでいないとしても関係ない。

　愛する方々。主は、知識についての高遠な基準によって、あなたをお消しにはならないであろう。私の知っているある人々は、こう考えていた。「もしあの回心者が教理においてきちんと教えを受けていないとしたら、決して神の子どもではないのだ」、と。主には、非常に妙な状態の頭をした子どもたちが何人かいる。そして、もし主が最初に彼らの心を正しくなさるとしたら、後に主は彼らの頭を正しくしてくださる。しかし、あなたや私がこう云うとしたらどうであろう。ある人が、自分よりも進歩した聖徒たちの知っていることをみな知らなければ、神の子どもではないのだ、と。これは非常に卑劣なことである。愛する母親たち。疑いもなく、あなたの、読み書きできない小さな子どもは、あなたの胸で抱きしめられるであろう。その際の愛情は、学校で一等賞をとってきたばかりの、あなたの素晴らしい息子に劣らないものに違いない。あなたは、こうは云わないであろう。「この小さな子は大人ではないから愛さないことにしましょう」、とか、「私の小さな娘は愛さないことにしましょう。まだ一人前の娘に育っていませんもの」、と。おゝ、否！　主は小さな者たちを愛される。もしあなたが、「ただ一つのことだけ知っています。私は盲目であったのに、今は見えるということです」［ヨハ9:25］、と云えるとしたら、あなたは神によって教えられているのである。もしあなたがこの2つのこと――あなた自身が罪人であることと、キリストが《救い主》であられること――を知っているとしたら、あなたは天国に行くに足るだけの学者である。

　そして、主イエス・キリストは、あなたの種々の恵みを測る基準を定めることによって、あなたをお消しにはならないであろう。「これこれだけの信仰があれば、あなたは救われる。これしか信仰がなければ、あなたは失われる」、ということではない。おゝ、否。もしあなたにからし種ほどの信仰があるとしたら、それであなたは救われるであろう。もしあなたがキリストを本当に信じているなら、あなたは救われている。キリストの衣のすそを指で触り［マタ9:20］、震えながらこっそり後ろに引っ込んだ女は、真にいやされた。さっと一触れしただけであっても関係なかった。《救い主》を両腕でかかえて、「主よ。今こそあなたは、あなたのしもべを、みことばどおり、安らかに去らせてくださいます」［ルカ2:29］、と云ったシメオンでさえ、背後からやって来て、《主人》の衣のふさに触ったその女にまさって確実に、救いに至る信仰を有していたと云うことはできない。

　来るがいい。あなたがた、小さな者たち。――あなたがた、震えている者たち！　恐れてはならない！　イエスは、こうしたいかなる手段によっても、あなたをお消しにはならないであろう。私はあなたに、主があなたをどうされるか告げよう。そして、それはこうである。あなたを消す代わりに主はあなたを守られる。ご自分の愛という柔らかな息吹をあなたに吹きかけ、小さな火花が1つの炎となるようにされる。あなたがた、若い人たちは、私たちの中のある者らが四十五年前にどれほど手間のかかることをしていたかを知らない。そのときには、朝起きると、古めかしいしかたで明かりを点けなくてはならなかった。火打ち道具を手に取って、面倒なしかたで火を打ち出し、小さな火花が火口の中に燃えつかせるようにする。――おゝ、何と小さなことか。それから、それを優しく燃え立たせて炎になるようにしたのである！　手の指がほとんど凍てつくような寒さの朝、私たちはいかに1つの火花を尊んだことか！　私たちは決して火口箱の蓋を閉じてその火花を消したりしなかった。できるものなら、私たちのともしびの火口に点火しようとした。

　さて、主イエス・キリストはその優しい御霊を、静かにあなたに吹きつけてくださるであろう。主はあなたの精神に、この上もなく大きな、また、尊い約束の数々をもたらしてくださるであろう。何人かの親切な友たちを連れてきてくださるであろう。彼らはあなたに自分の経験を告げ、あなたを慰めようとしてくれるであろう。私の愛する兄弟。私はいずれそのうち、あなたが力強く勇敢な祈りをささげるようになるのを聞いても驚かない。あなたがまもなく前に進み出て、公に信仰を告白することになっても驚かない。また、もしあなたがすでにそうしていたとしたら、私が全く確かに感ずるところ、あなたはその告白に名誉を与え、より強くなり、ついにある日私たちがこう云うようになるはずである。「キリストのためのあの大胆な証し人は誰だろうか？　あの燃えてかがやくともしびは誰だろうか？」、と。その人は、かつてはくすぶる燈心にたとえられた人にほかならない。私は、私の双子の息子の、最初の誕生日から二十一歳になるまでの肖像写真を持っている。最初の年、この小さな奴らは、1つの乳母車の中に座っている。二十一歳の時の彼らはそうしたことを全くしていない。彼らは成人しきっている。だが私は、彼らが赤ん坊だった頃から少年になり、それから青年になり、若い男性になるまでのことをずっと辿ることができる。私は彼らが二十一年間、乳母車で運ばれているのを見たとしたら嬉しくなかったであろう。その場合、自分を最も不幸せな父親だと考えたはずである。それと同じように私は、あなたがたの中の誰もが、霊的な幼児期にとどまることを望んでいない。私たちはあなたがキリスト・イエスにある完全な成人の身丈に達することを見たいと欲している。いのちは尊いものだが、私たちは成長を待ちうける。一個の火花は火だが、私たちは炎を期待する。恵みは値もつけられないほど貴重なものだが、私たちはそれが日ごとに増し加わり完璧なものへと進んでいくことを切望する。小さな事の日［ゼカ4:10］を蔑んではならないが、しかし、それよりも大きな事へと前進するがいい。慰めを受けるがいい。だが、自己満足してはならない。安心するがいい。だが、のらくらしていてはならない。

　これから主の食卓が広げられる。そして、これは大人たちだけのためのものではなく、恵みにおける赤ん坊たちのためのものでもある。ここに来るがいい。あなたがた、主を愛する人たち。また、あなたがた、主を信頼している人たち。その信頼がいかに微かなものであっても関係ない。あなたの勇気がいかに微弱であっても、来て、迎（い）れられるがいい！　私たちの主の食卓は、巨人たちだけのためのものではなく、幼児たちのためのものでもある。その食品は堅い食物ではない。もろく、か弱い者たち向きのパンと葡萄酒である。自分を吟味するがいい。あなたがた、震えおののく真摯な者たち。だが、その吟味の結果、近づかないで終わってはならない。むしろ、この聖句が何と云っているかに注意するがいい。「ひとりひとりが自分を吟味して、そのうえでパンを食べ……なさい」［Ｉコリ11:28］。吟味は、パンを食べさせないためではないのである。あゝ、あなたがた、主のあわれみを希望する人たち。あなたの主はあなたをご自分の愛の饗宴へと招いておられる。あなたは来て、迎（い）れられることができる。もしあなたが信仰によってキリストご自身のもとに来たことがあるなら、その食卓にも来るがいい。そして今晩、主を覚えるがいい。

　主があなたを祝福したまわんことを。イエスのゆえに。アーメン。

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説教前に読まれた聖書箇所――イザヤ51章

『われらが賛美歌集』からの賛美―― 734番、682番

　

くすぶる燈心［了］

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