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その名をイエスと

G・キャンベル・モルガン

「その名をイエスとつけなさい。この方こそ、ご自分の民をその罪から救ってくださる方です」　マタイ1:21

　今日でも赤ん坊の命名は、1つの重大な出来事である。近年のように価値観も多様化し、軽薄なところのある時代には、子どもの名もさまざまな要因によって選ばれる。父親の名前の一字を取って名づけられる子もいれば、親たちの希望をこめた名前をつけられる子もいる。しかし概して云えば、それは好みの問題にすぎない。

　私たちにくらべるとヘブル人は、わが子につける名前にずっと大きな意味を持たせていた。旧約の歴史を読むとそのことがわかる。もちろん彼らのつけた名前は、しばしばまとはずれなものであった。最初の名前であるカインは、まとはずれな名であった。エバはその長子の名をカイン----「得た」----と呼んだが、やがていたく失望することになった。彼女は約束の子孫がすでに来たと思っていたのである。また二番目の名前もまちがっていた。彼女は次男をアベル----「むなしさ」----と呼んだ。しかしその後の年月の中で母親の心をより満足させたのは、（たしかに早死にする運命にはあったが）カインよりもアベルの方であった。［創4:1-2］

　時として、悲劇的な名前もつけられた。あの傷心の預言者ホセアがわが家に生まれた子どもたちにつけた名前は、選民イスラエルのすさまじい霊的状態を示すものであった。彼は第一子をイズレエルと名づけた。さばきはイズレエルにせまっている！　第二子はロ・ルハマと名づけられた。あわれみは得られない！　また第三子をロ・アミと名づけた。わたしの民ではない！［ホセ1:1-9］

　さてマリヤに子どもが生まれたとき、ヨセフはイエスと名づけた。それは彼が御使いから云いつかった特別な命令によったものである。その御使いは天の意志、神のみこころの使者であった。その赤ん坊は天でイエスと登録されていた。そしてこの名前----御使いが天の高等法院で命ぜられ、その云いつけに従ってヨセフが名づけたこの名前----は、今しも生まれた幼子に対する天の信頼を表わす名前であった。地の救いが実現するのは、地がイエスに対するこの天の確信をともにするときである。最初からこの名を与えたということ自体、いま生まれた幼子に対する、この神の信頼をはっきり表わしている。

　この命名の物語には、非常に興味深いものがある。私は皆さんが子どものころから何度も聞かされた聖句を引用しているが、どうか腹を立てずに、もう一度この名前について考えてみていただきたい。これは少しでも読めるようになった子ならだれでも、つづることのできるような名前である。その名前に、もう一度注意を向け直そうではないか。そして、この名前がなぜ与えられたのか、そこにこめられた意味を少しでも理解するようつとめてみようではないか。そこでまず、与えられたこの名前そのものについて考えてみよう。次に、なぜこの名前がこの幼子に与えられたかを考えてみよう。

　最初に、この名前が実に人間くさいものであったという事実を思い出していただきたい。これは非常にありふれたヘブル名であった。この赤ん坊が生まれた当時のユダヤには、イエスという名の男の子がたくさん暮らしていたにちがいない。またこの名は、それ以前の何十年、何百年も前から、ユダヤ人の家庭ではざらにみられた名前であったにちがいない。というのも、ご承知のとおり「イエス」という名は、ヘブル名の「ヨシュア」をギリシャ語のかたちにしたものにすぎないからである。ヨシュアという名の男の子は大勢いたし、当時通用していたギリシャ語方言でイエスと名づけられた男の子も大勢いたにちがいない。これは何のへんてつもない名前であった。マリヤのとこに生まれた男の子はイエスって名だとさと聞いても、隣近所の人々は、そりゃ一体どういう意味だ、などと尋ねたりはしなかった。ナザレでもユダヤでもたくさんのイエスがそこらじゅうを走りまわっていたし、どんな田舎に出かけても、それは最も平凡な名前の1つであった。今日の英国でいえばジョンのようなものである。

　このように神は、ごくごく平凡な名前を選ばれた。それは、いま生まれた幼子を人々の子らから引き離すのではなく、人々の子らとかわらぬ者として立たせる名前であった。神は、だれでもつけるような名前を選ばれた。「その名をイエスとつけなさい」。それは隣の家の子にもついていた名、何世紀もの間人々が自分の男の子に名づけてきた名であった。「その名をイエスとつけなさい」。

　しかし一体なぜ、この名前はそれほど広まっていたのだろうか。その名前は旧約の歴史のどことかかわっていたのだろうか。これは格別に二人の人物と結びついていた名前であった。----ひとりは、最初にこの名前を授けられた指導者である。もうひとりは、同じ名を持つ有名な祭司である。

　この名前で最初に呼ばれた人物は、イスラエルの民の指導者であったモーセの死後その後をついだ偉大な将軍であった。イスラエル人が約束の地に定着するための苛酷で激しい戦闘は、彼の手にゆだねられた。この人物はエジプトで奴隷として生まれ、40年間エジプトで過ごしたのち、モーセがイスラエルの民をエジプトから脱出させたときにモーセに従っていった。そして次の40年間は荒野で、ありとあらゆる辛酸をなめた。最後に彼は、剣といくどもの大会戦を通じて民を約束の地に導き入れ、その地を占領させた。これが、この名を最初に授けられた人物である。聖書に関する限り、そしてまた十中八九ユダヤ人の歴史の中においても、この名前はそれ以前には決して知られていなかった。これは彼のためにモーセが特別につくった名である。もともと彼の名はホセアまたはホシェアといった。しかしモーセはこれを変えて彼をヨシュアと名づけたのである。

　この名前で呼ばれた次の有名な人物は、ハガイおよびゼカリヤによる国家復興期の祭司であった。

　さてここに、この幼子が生まれた。そのとき天は、ユダヤの家庭になじみ深い名前、ヘブル民族史に残る軍事指導者と復興期の祭司の名と同じ有名な名前を選んで、こう命じた。「その名をイエスとつけなさい。この方こそ、ご自分の民をその罪から救ってくださる方です」。

　この問題をもう少し詳しく考えてみよう。私たちはこの名前がヘブル人の男子にとって平凡な名であることを見てきた。またこの名前がこのように広まっていたのは、歴史的な結びつきがあるためであることを見てきた。それではこの名前はどういう意味なのだろうか。

　さきほど少しふれた話は民数記13章にあるが、ここでは約束の地を探索するため各部族の族長が派遣されたと語られている。その一員となったのがエフライム部族の族長、ホセアであった。ホセアとは、救い、または解放という意味の名である。ところが民数記の事件が進行していく中で、挿入的に、いわばカッコに入れてもいいような形で語られた記事がある。モーセはヌンの子ホセアの名をヨシュアと変えたというのである［民13:16］。なぜそう変えたかは、斥候たちの帰陣とともに明らかになった。それはよく知られた話である。大部分の者たちは、カナンへ攻めのぼることに反対する報告をした。しかし、少数の者たちは、----余談だが、人間の歴史の中で、少数派の報告がほとんど常に正しかったということは非常に興味深いと思う。----少数の者たちは、かの地は占領できると報告した。ヨシュアはその代弁者であった。彼は何と云ったか。彼ははっきりと述べた。どのような困難があっても関係ない、エホバはご自分の民をかの地に導き入れ、それを占領させてくださる、と。私は、モーセが彼の名を変えたのは、この言葉、この事実、この確信のゆえであったと思う。まれに見る人物眼と洞察力を備えていたモーセは、自分の従者がイスラエルの民にとってどのような意味を持つかを見抜いていたのである。ホセア、救いという名も悪い名ではなかった。しかし、この人物は自分自身の右腕にたよってはいなかった。自分が民に救いをもたらすことができるなどとは夢にも思っていなかった。彼は、それはエホバのなさることにほかならないと宣言した。だからモーセは、エホバとホセアという2つの名前を織り合わせて、彼をヨシュアと名づけたのである。ヨシュアとは2つの名前、すなわちエホバとヤーシャーの組み合わせにほかならない（ヤーシャーとは、ホセアと同じく救いのことである）。ヨシュアという名は、エホバは救う、あるいはエホバの救い、を意味する。このように、エホバと救いは1つの名前に織り合わされた。そのように名づけられるということは、新たに立てられた指導者に非常な名誉が授けられたということである。またそれは、その名を授けた人物の驚くべき洞察力をも示している。もとのホセアという名も立派な名であった。また彼は正しい報告をもたらした。しかし彼は自分が民を導き入れることはできないことを知っていた。ただし神はそれがおできになることも知っていた。だからモーセは、私はお前の名を変えて、救いの神の名をおまえの名に加えよう、と云ったのである。この名前は、そのようにしてできた。そしてヨシュアは民を約束の地に導き入れた。しかし彼は、民に安息を与えることはできなかった。

　ヨシュアという名を持つ後代の大祭司は、民の不義を身に負うことで、その名のゆえんをある程度成就するかに見えた。汚れた衣を着ていたという幻がそれを示している。そしてたちまち彼には冠がかぶせられた［ゼカ3:3-5］。これらはみな預言的な記述であり象徴であったが、彼は失敗した。それは、その後の民の歴史が証明している。何世紀か過ぎ去ったが、ヨシュアの名の持つ高貴な思想は、現実には一度も実現しなかった。しかし今、この宿屋の外庭の静かなたたずまいの中で、ひとりの幼子が世に生まれ出た。世は全くとんちゃくしなかったが、天はそうではなかった。星々は輝き、御使いたちは歌い、賢者たちは上天からのしるしを感じ、この飼馬おけに向かって喜んで旅をしてきた。この子はだれか。「その名をヨシュアとつけなさい。この方こそ、ご自分の民をその罪から救ってくださる方です」。

　神は近所で遊び回る男の子たちと同じ普通の名前をとって、ご自分の御子におつけになった。神は、過去の偉大な歴史的名前、すなわち偉大な指導者の名前と過去の祭司の名前をとって、今生まれたご自分の御子にお与えになった。それは確かにその通りである。しかし中でも最も深い事実は何か。その名をエホバ、ヤーシャーとせよ。その名をヨシュア、イエスとせよ。彼の名をその御父の名、エホバとし、彼のご性質を明らかに示すがいい。彼の名をその御父の無上の熱望である救いとし、彼の世でなすみわざの意味を示すがいい。

　私たちはこの名を書物に記しては世から世へと書き記し、言葉にしては口から口へと語り伝える。イエス！　しかしその名は、彼についての本質的な真理にかかわっている。エホバ、ヤーシャー。彼をそう名づけるがいい。これはわたしの子。これは、わたしと性質を同じくするわたしのしもべ。これはわたしのわざを行なうために来た。そうして初めて私は、やがて彼が口にする言葉の意味がわかる。「わたしと父とは1つです」［ヨハ10:30］。その名をイエスとつけるがいい。そうして初めて私は、彼が別のおりに云った言葉の意味がわかる。「わたしの父は今に至るまで働いておられます。ですからわたしも働いているのです」［ヨハ5:17］。その名を救いとつけるがいい。2つの名を1つとし、無限の調べに織り合わせるがいい。それがヘブル語であれギリシャ語であれ英語であれ、その妙なる調べを奪い去ることはできない。世界中のどの国語、どの方言にしてみても、この御名は甘美なる響きで聞く耳ある人々の胸を打つ。

　イエスよ、いと高くすべての上にます御名よ
　　地の底、地の上、あまつ天にても
　御使い、人の子ら　ともに伏し
　　悪霊、悪魔　恐れて散りなん

　これが彼の勝利の進撃にともなう楽の音である。しかし、そこにはもう1つ別な響きも混じっている。

　イエス、甘美な御名よ
　　イエス、愛の響きよ
　漂泊の民は今よろこびて
　　上なる故郷へ進みゆかん

　イエス、イエス
　　妙なる愛の調べよ
　心はその音にうちふるえ
　　胸はその響きに高鳴らん

　この名はあらゆる世代、あらゆる階級の人々の心に訴えてきた。それはこれが偉大な名だからである。それは道端に遊ぶ男の子の名前である。それは私たちの心を感動させる。それはエホバ、ヤーシャーである。彼をそう名づけるがいいと御父は御使いに云われた。そしてその子の名前はそう天で登録された。神の御名と、彼が地上で果たすべき偉大な使命は1つにより合わされていた。

　第二に考えたいのは、この名が与えられた理由である。「その名をイエスとつけなさい。この方こそ、ご自分の民をその罪から救ってくださる方です」。ここで1つの強調がなされていることに気づくであろうか。そう気づくことによって、私たちは非常に大きな益を受けることができる。この箇所が本当に伝えたいのは、1つのコントラストである。「その名をイエスとつけなさい。この方こそ、ご自分の民をその罪から救ってくださる方です」。もう一度云う。この文章の組み立てそのものが、1つのコントラストを指し示している。何とのコントラストか。決して実現することのなかった過去の熱望のすべてとの対比である。敗北に終わった激しい苦闘の試みすべてとの対照である。

　この偉大な名前を最初につけられた人物のことをとりあげてみよう。多くの点でヨシュアは、旧約聖書中最大級の人物のひとりである。それにもかかわらず、すべてを考えに入れるとき彼は成功しなかった。ヘブル人への手紙の著者は私たちにこう告げている。「もしヨシュアが彼らに安息を与えたのであったら、神はそのあとで別の日のことを話されることはなかったでしょう｣［ヘブ4:8］。だからこの過去の偉大な指導者は失敗したのである。彼は民を約束の地に導き入れはした。過酷な試練と、エリコやアイなどに対する輝かしい勝利を通して導き入れはした。しかし確かに彼は、一度も民に安息を与えることはなかった。その後の年月すべてにわたる歴史は、絶えざる不安と動揺の歴史であった。ヨシュアは決して民を安息に導き入れたのではなかった。よろしい。この子の名はヨシュアとつけるがいい。なぜならこの方こそ、ご自分の民をその罪から救ってくださるからである。

　預言者ハガイおよびゼカリヤの時代の大祭司ヨシュアはどうであろうか。彼についてはあまり語られていない。しかし彼はそのとき宗教的代表者としてゼルバベルの配下の人々を鼓舞し、またその祭司としてのとりなしの祈りによって預言者の職務を助けていたと思われる。そのときの彼は、象徴的なことばによって、汚れた民イスラエルを表わす者として、汚れた衣を身にまとっていたと云われる［ゼカ3:3］。しかし彼は罪を取り除くことはできなかった。イスラエルは汚れた衣を身にまとったままだった。そしてイスラエルは自分の使命を果たすことに失敗した。神のメッセージをとりつぐ国民としてつくられたはずなのに、彼らはその務めを果たすことができなかった。大祭司ヨシュアは、将軍ヨシュアと同じように失敗した。

　よろしい。では、この子の名はヨシュアとつけるがいい。なぜならこの方こそ自分の民をその罪から救ってくださるからである。また兄弟たち。そのように、このコントラストの強調を見ていくとき私たちはもう1つ気づくことがある。それはその名前が、あるいはこの名前に伴って与えられた宣言が、単に使命を示すだけではなく、その手段をも示しているということである。御使いはヨセフに、「その名をヨシュアとつけなさい」、なぜならこの方こそ民を導き入れてくださるからです、とは云わなかった。御使いはヨセフに、「その名をヨシュアとつけなさい」、この方こそ汚れた衣を身に負って、民が証しできるようにしてくださるからです、とは云わなかった。そう云うこともできたかもしれないが、それよりずっと意味の深いことを云った。「この方こそご自分の民をその罪から救ってくださる方です」。兄弟たち。これは勝利は確実に得られるという啓示である。ヨシュアは民を安息に導き入れることに失敗した。なぜか。民の罪のためである。彼は民の罪を処理することができなかった。祭司ヨシュアはイスラエルに神からの使命を果たさせることに失敗した。イスラエルが諸国民に対する神のメッセージとなるという使命を実現させることができなかった。なぜか。民の罪のためである。彼は民の罪をになうことができなかった。それで御使いは、単にことの表面や結果を云い表わすのではなく、問題の根底まで達して云うのである。「その名をヨシュアとつけなさい」、なぜならこの方こそ、ご自分の民をその罪から救うことによって、彼らを安息に導き入れ、彼らにその召命を成就させてくださる方だからです、と。罪こそは安息を妨げ、敵に力を与えるものなのである。

　この新たに生まれ出た幼子をイエスと名づけなさい、「なぜならこの方こそご自分の民を」根本的な原因である罪から、またその結果として生ずる破滅から救ってくださる方だからです。もし彼の民が罪から救われるのなら、彼らは安息を見いだすであろう。もし彼らが罪から救われるのなら、彼らはその召命を果たすであろう。そして神が意図された通りのものとなり、神が望まれた通りのことを行なうであろう。

　「その名をイエスとつけなさい。なぜならこの方こそ、ご自分の民を罪から救ってくださる方だからです」。ここで「ご自分の民」ということばが重大な意味を持っていることをぜひ覚えていただきたい。このことばは制限をあらわし、かつまた無制限さを示している。どのような制限をあらわしているか。それは、ご自分の民を、というところに示される。いや、兄弟たち。逆に問うことにしよう。ここにはどのような無制限さが示されているか。ここには、この方こそご自分の国民を救ってくださる方だ、とは云われていない。しばしば指摘されているように、ここで彼が救ってくださると云われているのは神の民ではなく、ご自分の民である。「彼の民」である。彼は、1つの身分を創設するために来ようとしていた。1つの王国となるべき民をつくりあげ、その王国を設立するために来ようとしていた。そして、その彼の民を、彼は罪から救ってくださるのである。ここに先ほど述べた制限がある。しかしそこには無制限さもある。人はどのようにして彼の民となることができるのか。ただ単に彼を信じ、彼を自分の王として迎え入れることだけによってである。これは、ユダヤ教の境界と重なりあった言明である。遠方より彼のもとへ来たった賢者たちや、ベツレヘムの野で歌う羊飼いたちをも、これはふくむ言明である。これが、この幼子の最初の命名にまつわる物語である。

　しかしその物語を読み進めていくうちにわかってくるのは、成長したこの幼子がおびただしい数の人々の間に立ち、ユダヤの国境を越えてツロやシドン、フェニキヤまで出て行き、ついにはサマリヤ人のもとまで出かけていったということである。彼が弟子たちに残した最後の命令は、全世界に出て行けというものであった。人々の間に立って彼は云った。「すべて、疲れた人、重荷を負っている人は、わたしのところに来なさい。わたしがあなたがたを休ませてあげます」。「わたしのところに来る者を、わたしは決して捨てません」［マタ11:28；ヨハ6:37］。これは彼が万人に向かって発した招きである。あなたもわたしのもとに来なさい。今、わたしのもとに来ませんか、と。私は今1つの想像を思い描きながらこう語っている。世界中の国民が、世界の四方八方からやってきて、キリストのもとに群れをなして集まってくる光景である。それが、彼ご自身の民である。彼は何をなさるのか。彼らをその罪から救い出すことである。皆さんも、自分を彼に明け渡すのでない限り、彼の民となることはできない。このキリストの招きは、すばらしい祝福を受ける好機である。その好機をとらえて、自分を明け渡すとき何が起こるか。彼の民とされる。そして彼はそのような者たちを罪から救い出す。それは、彼のもとに来た人々を休ませ、安息に導き入れるためである。これは、ヨシュアには決してできなかったことである。また彼は、みもとに来た人々に神からの使命を果たさせることができる。これは、大祭司ヨシュアにはできなかった。しかし私たちのイエスは、私たちを罪から救い出すことによって、それをなしとげてくださるのである。

　兄弟たち。御使いがこの名前をヨセフに告げたとき、それは人間的見地からみると預言であった。神の見地からみるとき、それは信頼による断言であった。絶対的な確信と確実性であった。ヨセフよ。おまえはその子をエホバ-ヤーシャーと名づけなければならない。なぜなら彼は自分の民をその罪から救うからである。天はそのように語った。そしてそれを聞く人々にとって、それは預言であった。天啓であった。希望であった。ある意味では、彼がその名前を本当に自分のものとしたのは、彼が天へお帰りになったときだということができる。次のように書いたとき、パウロはこの恵み深い物語のすべてを語り尽くしているのである。「キリストは、神の御姿であられる方なのに、神のあり方を捨てることができないとは考えないで、ご自分を無にし、仕える者の姿をとり、人間と同じようになられたのです。キリストは人としての性質をもって現われ、自分を卑しくし、死にまで従い、実に十字架の死にまでも従われたのです。それゆえ、神は、キリストを高く挙げて、すべての名にまさる名をお与えになりました」。何という名か。「それは、イエスの御名によって……すべてが、ひざをかがめ……るためです」［ピリ2:6-10］。

　御使いは、そのような名を口にしたのである。その名は天の確信と、人の望みの預言の名であった。そしてその赤子はこの名で呼ばれた。無邪気な幼児時代も、あのユダヤの村々の同じ名前を持つたくさんの少年たちの間でも、その名で呼ばれた。そしてこの少年が青年となったときも、きよい生き方を守り、あらゆる悪に対して堅く抵抗する中で、やはり彼は同じヨシュア、イエスという名で呼ばれた。そして彼はその公生涯の年月の中でもかわらずその名で呼ばれた。十字架にかかられたときも、これ以上ないほど、あまねくその名で呼ばれた。この十字架にかけられた男はだれか。イエスと名づけられたあの赤子である。しかし、それは誰か。ヨシュアであり、エホバであり、救いなのである。

　彼にはそれができるだろうか。罪を取り除き、安息をもたらすことができるだろうか。罪を取り除き、私に自分の召命を全うさせることができるだろうか。いや、私にはわからない。彼は死んだ。人々が彼を葬った。私にはわからない。何と、私は彼の弟子のひとりではないか。私にはもうわからない。私は希望を抱いていた、しかしもう確信はない。ところで、この女たちは何を云っているのか？　彼がよみがえった？　その通り。彼はまず女たちにあらわれ、それから11使徒、ついでペテロの前にはふたりきりであらわれた。そしてその他の者たちの前に、あるときは同時に500人もの人々の前に姿をあらわしたのである。彼は弟子たちをオリーブ山で復活の主であるご自分のみもとに引き寄せ、天へ昇って行かれた。ユダヤで遊び回る男の子たちと同じ甘美な人間名をもったまま昇って行かれた。安息へ導き入れることに失敗した過去の指導者と同じ名前をもったまま、勝利のうちにその名を天そのものへと引き上げられた。そして彼はその名を新たに受けられた。もはや人に対する預言ではなく、福音として受けられた！

　そして今や、神の造られた宇宙の中心、また歴史の中心に座しているのは、その名をもたれるお方、栄光を受けられた私たちのヨシュアなのである。ハレルヤ！　彼は私たちを安息へと導き入れることができる。彼は私たちの大祭司である。もはや汚れた衣を身にまとった大祭司ではない。それは十字架の上で完全に取り去られた。そうではなく祭司の冠をいただき、多くの王冠をかしらにいただいた大祭司である。これがイエスである。王座につかれた方である。願わくは神が私たちを助けてくださり、私たちにこの御名の福音を聞かせてくださるように。願わくは私たちが、その御名の預言を彼が完全に成就されたことを確信をもって知ることができるように｡

その名をイエスと［了］

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